人間マインドの研究(1)2009年10月30日 13時21分37秒

数ヶ月前、ゴリラ・マインドとチンバンジー・マインド、まとめて言えば、人の中にある動物的マインドについて書いてみた。今回はその続きで、人間マインドについて書いてみよう。

(人の中にある)動物的マインドと人間マインドが、最大に違うところは、「自分が望むものを得るために、何に、誰に、頼るのか?」というところにある。

動物的マインドにとっては、自分の精神的物質的幸福は、すべて外(他者)から来るものである。だから、他人(世間一般)と人間関係が非常に重要であり、自分の精神的物質的幸福を得るために、他人をなんとかコントールしなければいけないと思っている。もちろん、他人も世の中もめったに自分の思い通りにならないので、動物的マインドが強く作動している人は、人間関係、世の中の状況、その他あらゆることに不満と愚痴が多い。不満と愚痴からさらに動物状態へ退化すれば、極度の怒り、憎しみへ、そしてさらに暴力へと転落していく。

もし人が、動物的マインドを一歩抜け出して、人間マインドに向かえば、最初に開発されるマインドが、「達成マインド」であり、私はこれを勝手に「人間マインド第一段階」と呼んでいる。

「人間マインド第一段階」は、自分の精神的物質的幸福は、他人に頼らず、自力で得ると信じるマインドである。何事もすべては、「自分の力で獲得すべきこと」であり、自力で達成したことに喜びを感じる。動物的マインドにとって重要なのは、他人や世間(なぜなら、そこに自分の幸福の源泉があるから)であるが、達成マインドにとっては、一番重要なことは、自分の力、そして自分が達成すべき目標と方法論である。

私たちが、子供の頃、学校で受ける教育は、この「達成マインド」を最初に訓練するためのものだが、残念ながらというべきか、学校教育はそれにあまり成功していない。子供の多くは、小学高学年くらいに、勉強やスポーツなど、学校での訓練を苦痛に感じるようになり、早々と「達成マインド」の訓練から脱落してしまっている。

なぜ「達成マインド」の訓練は困難かといえば……

私が思うに、動物的マインドと人間マインドの間には、大きなギャップがあるからである。動物的マインドは、ある種、動物的本能にもとづき、本能的であるゆえに、いわゆる「努力」がいらない。それは基本的に「食と性と人間関係」以外に関心がなく、その本能は生物の歴史と同じくらい古い。それは未来のいつかに結果がでる「達成」には無関心である。

しかしながら、今の時代、人々は、「達成マインド」が発達した人たちのほうが、この世の中を有利に生きていけることを理解し始め、またこの「達成マインド」が非常に発達した代表的な人たち、スポーツ選手、企業家、ビジネスマンなどは、一般に高収入で、その人たちはこの世の中で高い評価を受けていることもよく知っている。

そこで、出版界は、こういった人々の関心、つまり、「どうしたら自分が望むもの、自分の目標を、できるだけラクして簡単に達成するか」に応えるべく、勉強本、ビジネス、スピリチュアル系の成功哲学、引き寄せの法則本など、達成マインド育成用の本を多種提供している。が、次から次へ似たような本が書店にあふれているということは、本を読んでも、多くの人が「達成マインド」の訓練にあまり成功していないことを物語っている。

「何かの目標を立てて、それを達成する」――子供にしろ、大人にしろ、そのことは多くの苦痛(苦労)と犠牲を伴うものだ。子供の頃、試験のたびに、私はイヤイヤ、テレビやマンガや本を我慢したものだし、大人になって何十年たった今でも、締め切りのある作業(幸い、ほとんどないけど)や目標を決めてそれに向かうことが本当は苦痛である。

私の経験でいえば、「目標を達成したときの喜びと(物質的あるいは精神的)報酬」と「それを達成するための苦痛」を秤にかけて、喜びと報酬が苦痛よりも大きいだろうと、脳が判断するときに、人は「達成マインド」を起動できるのではないかと思っている。

あるいは、こういう言い方もできるかもしれない――「何かを達成する苦しみ」と「何かを達成しない苦しみ」を秤にかけて、「何かを達成する苦しみ」が、「何かを達成しない苦しみ」よりも小さいと脳が判断するとき、人は「達成マインド」を起動できる、と――私はこれを、「最小苦痛の選択法則」と呼んでいる。

わかりやすので、スポーツ選手を例にとってみると、何かのスポーツ選手が、オリンピックでメダルを取るために、ものすごくハードな練習をしているとしよう。おそらく、練習が苦痛のときや記録が伸び悩んでいるときは、「メダル獲得という目標をやめることができたら、どれだけラクだろうか」と思ったりすることもあるはずだ。しかし、その選手の脳の中で、「メダル獲得を達成する喜びと報酬」>「メダル獲得を達成する苦しみ」、あるいは、「メダル獲得を達成しない苦しみ」>「メダル獲得を達成する苦しみ」であるかぎり、その人はより少ない苦痛に向かって、メダル獲得のために邁進せざるをえないのである。

ということで、何かを達成しようと思うことは二つの「苦しみ」の間でもがくことにもなるので、私はなるべく「達成事項」を増やさないように心がけてはいるが、しかし、まあ、仕事をして生活するためには色々なことを「達成」しなければいけないことも事実である。

どうすれば一番ストレスなく無理なく物事を達成できるか、私が到達した結論はといえば……

達成とはどんな未来の遠大な目標も今日の小さい目標も、すべてはプロセスから成っている。3つのプロセスで終わるものもあれば、10のプロセスで終わるものもあれば、100のプロセスや1000のプロセスが必要なものもある。大きな目標であれ、小さい目標であれ、1つ1つのプロセスを確実にやっていくその終着点に目標の達成があるのである――そのために役立つ、昔からある便利でシンプルな道具と方法がある――手帖にメモやプロセスを書いて、終わったことから線を引くという方法である。

小さい目標、簡単な目標が確実に実行できるようになると、数ヶ月単位、数年単位の目標を達成するマインドも少しずつ自然に育っていくものだが、反対に、小さいことが確実にできる前に、大きな目標を掲げるとたいてい挫折する――単純にいえば、遠大な目標や夢を達成できる前にまず、日々の小さい約束・連絡・物事がきちんとできるようになる必要がある―小さいことを確実にやり続けること、それが本当は一番困難なことなのである。


次回は、人間マインド第2段階「理解マインド」について書く予定です。

参考図書

「キッパリ!」上大岡トメ著 (幻冬舎)
達成マインドを訓練するための非常に基本的事柄が、イラストと簡単な文章で書かれている。何年か前に大ベストセラーとなった本。本書に書かれていることを、もし続けることができれば(←←これが困難なわけであるが)、かなりの効果があるだろう。どちらかというと女性向き。

[イベント]
「私とは本当に何かを見る会」(ハーディングの実験の会)
2009年11月15日(日)午後(名古屋)

ご予約・詳細は下記のサイトへ
http://www.ne.jp/asahi/headless/joy/event/event.html