ポジティブ・シンキング--その表と裏(2)2010年12月08日 11時58分22秒

今回は、そもそも、「ポジティブ・シンキング」とは何で、どういうメカニズムで、その効能はどうなのかという話について触れてみたい。

「ポジティブ・シンキング」――その言葉どおり、それは物事を肯定的に考える・見ることの推奨であり、特に「自分自身について肯定的に考える」の推奨である。では、なぜ自分自身を肯定的に考えることがよいのかといえば、自分自身を肯定的に考える人には、そうでない人に比べて、人生でよいことに恵まれる、とされているからである。

で、これは事実か?といえば、これは概ね事実である――ただし、同じくくらい悪いことにも恵まれるだろうけど。

「ポジティブ・シンキング」がどうやって効果をもたらすのかの、私がなんとかなく(目に見えるわけではないから、あくまでも推測であるが)理解したメカニズムを簡単に説明しみると、

* 人は、自分についてポジティブな観念を立てる。「私は成功している」とか、「私は金持ちだ」とか、「私は美しい」とか、「私は頭がいい」とか、まあ何でもいい。

* それから、その観念を自分が信じる。それを強固に信じたりイメージしたりすればするほど、つまり、そのポジティブな観念、ポジティブ・エゴに、自分のエネルギーを投資すればするほど、そのポジティブ・エゴはエネルギー的に拡大していく。

* それがかなり強固になって拡大すると、それはある種の磁石となり、外から似たようなエネルギーを引き寄せることになる。これは、他者からの「肯定的投影」と呼ばれるもので、つまり、他人もまた、その人に対して、「あなたは成功している」、「あなたは金持ちである」「あなたは美しい」「あなたは頭がいい」というイメージをいだき、そう思う人たちが多数になると、実際にそれが現実になる。

以上のような話は、「ポジティブ・シンキング」系の本によく書かれている話であり、もし人が本気で熱心に「ポジティブ・シンキング」を実践すれば、おそらく多くの現世的成功――お金、名声、人気等々を手に入れることができるだろう。

問題は、「ポジティブ・シンキング」系の本にはほとんど書かれていない、その裏側である。

まず第一の問題は――

そもそも人はどういう状況のときに、意識的に「ポジティブ・シンキング」を試そうと思うのかといえば、それは人が自分の現実に満足していないときにそれを試そうと思うのではないかと思う。つまり、その人が自分の中にそういった肯定的観念の正反対である否定的観念を見つけたり、自分の人生の状況を否定的に見たりするとき、「ポジティブ・シンキング」のメソッドに心惹かれることが多いのではないかということだ。そして、自分の中に否定的観念をもったまま、肯定的観念を積み上げようとすると、その人の心の中で大きな対立・葛藤が生じる可能性がある。

それから、もう一つの問題として――

人が仮に「ポジティブ・シンキング」によって、ポジティブ・エゴを膨らませ、他人からの肯定的投影を引き寄せることに成功し、さらには積極的に求めさえするとき、それはある種のエネルギー的な借金となることである。つまり、他人からエネルギーを借りて膨らんでいる状態となっている。本人がそれを十分に自覚していればいいが、それを自分の実力だと勘違いして、ポジティブな自分、成功した自分に酔いしれていると、いずれバブルは崩壊するものである。そのバブル崩壊の被害は、必ずしも本人ではなく、まわりに及ぶこともある。

その例を見たいと思うなら、芸能界が一番わかりやすい例を提供してくれる。あのテレビというスクリーンを通じて、大多数の人から肯定的投影を集中してかき集め、(たいした才能がなくても)スターになっていく人たちの人生は、必然的に浮き沈みが激しいものとなる。

だから、浮き沈みが激しい人生をお好みなら、そして世の中から多大な報酬と殴打の両方を得たいと思うなら、そして、打たれ強い人(=沈没したとき、自分は絶対に困難に負けないと、自分の意志の力で頑張れる人)なら、「ポジティブ・シンキング」はお勧めである――最近目についた有名人では、市川海老蔵さん(沈没)、そしてホリエモン(堀江貴文)さん(沈没→復活)あたりか。