デフレ―成功の代償2013年02月19日 11時24分01秒

今回の自民党政権は、前回病気で首相の座をおりた安倍首相と前回リーマン・ショックのあとの貧乏くじを引いた麻生財務大臣が中心になっているせいか、お二人とも前回の汚名挽回とばかり、特に経済に非常に気合が入っていらっしゃるようだ――「危機突破内閣」などという勇ましい名前までついている。

安倍さんは、まるで「デフレ」が敵であるかのように、「デフレ克服」を経済政策の第一目標にしている。しかし、私はよく思うことがある。そもそもデフレがそんなに悪いことか?と。確かに今はデフレ(つまり、物・サーヴィスの量がたくさん出まわっているので、価格が安い)であることが実感できる日々であり、ありとあらゆる物がかなり安い値段で手に入り、それにはよい面もたくさんあるはずだ。私自身は、無料でソフトや情報を使えたり、物にたくさんのお金を使わずにすんでいることを、いつもありがたく思っている。

それから、お金を上からばら撒けば(こういうお金を「ヘリコプター・マネー」と言うそうである)、それが景気回復に効果があるという考え方にも、疑問をいつも感じている。実際、90年代以後、歴代の政権は大なり小なり、デフレ対策をやってきた。つまり、世の中にお金をばら撒いてきたにもかかわらず、それはほとんど効果がなかったのである。麻生さんだって、前回首相のとき、国民給付金だったかで、国民に「ヘリコプター・マネー」をばら撒いたけど、デフレ克服には何の効果もなかったことは、明らかである。政府が、デフレ克服、景気回復のために(ほとんどが無駄に)ばら撒いたお金が、積り積って膨大な国家の借金となっているわけである。

日本のデフレ状況は、一つの原因だけでなく、1990年代以後の様々な日本社会の複合的状況の結果と必然的潮流であり、デフレの主だった原因を、列挙してみれば、

1生産年齢人口の減少(つまり、日本社会の老化)によって、日本人の物・サーヴィス消費能力(消費体力)が落ちている。

2技術革新によって、物を大量に安く生産することが可能になり、またアジア各国からの安い製品が大量に輸入されている。

3インターネットの普及による無料経済の拡大

4消費能力(体力)のない世代が、一番資産をもっている。

1の話は、以前に紹介した、「デフレの正体」(藻谷浩介著 角川新書)に詳しいが、これが日本社会のデフレの第一原因であることは、経済学者でなくても、誰にでも簡単にわかる話だ。要するに、国家・国民の老化によって、国家・国民全体の消費能力(消費体力)が落ちている。一般に、働いている人たち(若者・中年世代)は、引退した老人たちよりたくさん飲食することができ、物と経験への欲望に満ち、老人たちよりはるかに消費能力(消費体力)をもっている。国家も、発展途上のときは、より豊かな生活をめざして、物を買う意欲と体力に満ち(日本でいえば、1960年代、70年代、80年代の頃)ている。だから、若者が多い発展途上の国々は消費能力(消費体力)が高いといえるわけである。実体経済=国民の消費能力(消費体力)なのである。

しかし、現在の日本はどうかといえば、物や経験を買う消費能力(体力)のない老人たちが増え、しかもその老人世代が一番たくさん資産をもっている。そして、物質的には、ほとんどの国民がすでに豊かに物をもっているし、物は家々の中であふれかえって、その処分に困っているのが実情である。

以上の1、2、3は日本社会の止められない流れであり、4の問題もお金を使うことに対する個人の考え方の問題なので、節約・倹約世代にお金を使わせることは至難である。総合的にいえば、日本のデフレとは、戦後日本の経済と技術と医学が「あまりに成功しすぎた」代償ということであり、だから、自分たちの成功を認め・喜び、その代償を受け入れるしかないのでは、と思うのである。政府が何かをやればやるほど、「泥沼」、そんな感じである。

そんな日本の状況の中で、安倍さんは歴代の政権がやって失敗したことを、もっと制限なくやろうとしているわけである。(安倍さんが提言している政策は、安倍=アベとeconomics=経済学をかけた「アベノミックス」と呼ばれている)。

「アベノミックス」とは何をすることかといえば、世の中に出まわる通貨(円)の量を増やして、通貨(円)の価値を下げ、インフレ(アベノミックスでは2%の物価高が目標)を起こすことである。そして、どうやって通貨の量を増やすかといえば、日本銀行に日本銀行券を印刷させて、それで国債を買わせ、政府は公共事業などを通じて、国民と企業に金をばら撒くという方法である。

「贋金」を作って(安倍さんがやろうとしていることは、いわば、そういうことである)ばら撒き、円の価値を薄めて、偽景気回復をやろうとすることは、体力がない老人を薬でかろうじて元気にするようなもので、その薬の効果が切れたときの反動が恐ろしい。

たぶん、短期的には、「アベノミックス」のおかげで、円安、株高にはなるだろうし、公共事業関係は潤うだろうから、そういう世界に関わっている一部の頭のいい人たちはお金を儲けることができるだろう。しかし、大多数の国民にとっては、円安と消費税増税による物価高と実質所得の減少で、景気の悪化をもっと実感する時代が予想される。危機突破どころか、さらなる危機突入の可能性も大である――とはいえ、前回紹介した坂口さんのいう「革命」(ゼロ円革命)にとっては、さらにふさわしい時代となるだろうけれど。

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