人生は理不尽で不平等なもの(苦)2022年02月03日 09時06分54秒

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オンライン「マインドについて学ぶ会」

日時:2022年2月20日(日曜日)午前9時から午前11時頃まで(予約受付終了)

日時:2022年3月6日(日曜日)午前9時から午前11時頃まで

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オンライン「私とは本当に何かを見る実験の会」

日時:2021年2月27日(日曜日)午前9時から午前11時頃まで
日時:2022年3月3日(木曜日)午後2時より午後4時頃まで

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書店に行くと、書店の店頭には美しく装丁された様々なジャンルの本がきれいに陳列されている。もし出版の世界(出版業界)をまったく知らない人なら、たぶん、「出版の世界って、非常に知的で、美しく、賢い世界に違いない」と想像するかもしれない。

しかし、出版業界に限らないと思うが、業界の裏側にはかなりブラックな部分がある。先日、翻訳出版業界の裏側を描いたエッセイ『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(宮崎伸治著 三五館シンシャ発行)を読み、「こういう話あるある!」と共感と同情を感じながら読んでいた。正直に言えば、共感80%、そして、あとの20%は「もっと他のやり方もあったのではないか」という感想である。

少し説明すると、「出版翻訳家」とは、出版される単行本を翻訳する人のことで、これ以外にも翻訳家(翻訳者)には、技術翻訳家やニュースなどを翻訳する仕事をしている人もいる。なので、シンプル堂もいちおう「出版翻訳家」ということになり、著者とは同業である(あった)。

話の大筋を書くと、著者は20代の頃から出版翻訳家を目指し、海外に留学までして、英語の能力を切磋琢磨して磨き上げた。そしてなんとか念願かなって、大手出版社と縁ができ、しだいに出版社から単行本の翻訳の依頼を受けるようになり、ついにはベストセラーになることが確実の本の翻訳をまかされ、年収が1千万円を超えるようになった。ここまでのサクセス・ストーリが前半で、後半は、著者がしだいに対出版社との闘いに明け暮れる日々が綴られ、著者は裁判まで起こさざるをえない状況に陥っていく。この方は非常に頭もよく、法律も猛勉強して、裁判には勝ったものの、しだいに精神的に消耗し、ついに翻訳家をやめて、現在は別の仕事をしているというところで話は終わる。

出版社と具体的にどういうトラブルが起こったかと言えば、自分が翻訳した本の出版の中止・遅延、そして、翻訳家として名前が印刷されない、印税の切り下げ、連絡を無視される、その他。すべては翻訳家にとっては苦痛な出来事であり、それに加えて、「宮崎さんって、なんでもない人じゃないですか」みたいな、出版社の編集者からの上から目線的な言葉。そして、翻訳の質よりも売り上げ部数ばかり気にする編集者の体質など。

本を読んだ印象で言えば、著者は非常に几帳面で、正義感と自尊心が強い――翻訳者の権利が尊重されないことがまかりとおるのはおかしいと。実際彼は、自分が出版社に対して裁判を起こしたのは、自分のためだけでなく、今後翻訳出版の世界で、出版社と翻訳家の間で、公正な契約が履行されることが普通になるようにするためであったとも言う。これも出版界に限らないと思うが、いわゆるフリーランスの世界では、仕事を発注する側と仕事を受注する側で明確な契約を交わさずに、口約束でお願いする場合が多く、お互いに信頼関係があるときはいいけど、信頼関係がいったんなくなると、著者がかかえたような泥沼のトラブルになる場合もある。

今後、日本でも、フリーランスで副業をしたりする人が増えることが予想されるので、契約を最初にきちんと交わすという習慣はよいことだし、定着すべきことだが、それでも、ブラックの会社やブラックな担当者は消滅することはないだろうとは思う。

建前はどうであれ、ビジネスの世界では、仕事を発注する側(誰(どこ)に仕事を頼むかを決定して、お金を支払う側)が、仕事を受注する側よりも、圧倒的に「権力者」であるという事実は、江戸時代から(笑)変わっていない。仕事を発注する側と仕事を受注する側の関係は、平等ではなく、「不平等」なのである。

出版翻訳の世界にかぎっても、大手出版社の仕事をしたい翻訳者は山ほどいる(ようである)。だから、大手出版社にとっては、翻訳者など、特に尊敬すべき存在ではなく、代わりはいくらでもいる「翻訳労働者」にすぎない。翻訳者に対してどういう対応をするかは、編集者が動物園の人か、人間レベルの人かにもよるだろうが、動物園のレベルの人なら、無名や新人の翻訳者、あるいは気に入らない翻訳者には上から目線で、連絡や約束を守らなくても、心が痛んだりはしないだろう。

人生で理不尽な出来事に遭遇したとき、どう対処するのか、人それぞれに流儀があると思う。戦う人もいれば、逃げる人もいれば、あきらめる人もいれば、それぞれどの対応が正しいのかという正解はないから、自分自身で考えるしかない。

私自身も10代、20代の前半、人並みに以上に正義感と自尊心が強く苦しかったが、スピリチュアルを学び始めて、人生とは不平等で理不尽なものであることを受容し、正義感と自尊心を捨てる道を選んだ。そして不思議なことに、正義感と自尊心を捨てて、心が軽くなるにつれて、しだいに人生がよい方向に進み始めるという経験がよくあった。

長い人生で見聞したことから言えば、正義感をもって権力者と戦うのは、かっこいいが、ほとんどの場合は玉砕する。へたをすると自殺に追い込まれるか、精神を病んでしまう。『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』の著者は、法律でがちがちに武装して闘ってかろうじて勝つことはできたようだが(多少のお金を得ることができた)、しかし、彼の天職ともいえる翻訳家という職業を失うという代償を払っている。

ここで私が今書いたことを特に若い世代の皆さんが誤解しないように、一言付け加えると、もし職場や仕事関係で、セクハラ、パワハラ、その他賃金や報酬の不払い等に出会ったとき、泣き寝入りするのがよいと、私は言っているわけではない。「私は間違っていない。私にこんなことが起こるなんて、ひどい」と泣いているだけでは、物事は好転しないということだ。一人で解決できそうにない場合は、冷静になって、落ち着いて、助けてくれる人や機関(役所、民間の団体、その他)を勇気をもって(他人に助力を頼むのは勇気のいることだけど)探すことをお勧めする。探せば、ほとんどの場合、助けてくれる人や団体は見つかるものである。

さて、『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』の著者の方は、最近では、勉強系の作家としてお元気にまた活躍されているようである(ネットに彼の最近のエッセイが掲載されていた)。翻訳家の仕事をやめたあと、再び猛勉強に励み、今では英語だけでなく、他の数か国の外国語をマスターしたそうである。翻訳家なんて、前回も書いたように、絶滅危惧職種なので、別の分野で復活されてよかったのではないかと思う。


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