割り勘の悲喜劇2009年10月22日 13時30分55秒

本日は、割り勘をめぐる悲喜劇について書いてみよう。

最近、要約するとだいたい次のような内容の若い男性からの投稿を読んだ。

「先日、意中の女性を初めてデートに誘ってとても楽しい時間を過ごした。ところが、別れ際、その日かかった費用を計算して、彼女に割り勘で払ってと言ったら、それまで楽しそうにしていた彼女が怒ったような様子になり、お金は払ってくれたものの、そのあとメールをしても返事も返ってこない。自分は女性と男性は平等だと思っているし、年齢も近いので、割り勘でいいと思ったが、何か間違ったことをしたのだろうか?」

「男性と女性は平等だと思う」と、人間として正しい考えを持っているのに、どうしてこの男性はデートに失敗してしまったのか……

人間の論理では正しいことも、動物の領域では(男女関係は基本的に動物の論理で動いている)、通用しないことがある。

動物の世界では、オスがメスに求愛するときは、オスは精一杯見栄を張らないと、求愛には成功しない。「精一杯見栄を張る」とはどういうことかというと、自分がもっている力をできるだけメスにアピールするということだ。(もしテレビ等で機会があれば、「極楽鳥」という鳥のオスの求愛ダンスを見ることをお勧めする。オスたちの華麗で見事なダンスは必見の価値あり)

初デートで、男性が奢ることを女性がひそかに期待するのは、そのことが、オスがどれだけ自分のために「見栄を張ってくれるのか」を査定する一つのバロメータになっているからなのである←←動物のメスの論理から言えば。

それが帰り際に、「じゃあ、割り勘」では、「ああ、この人の私に対する求愛って、こんな程度なのね。がっかり。私には、私のためにもっと激しく求愛してくれるオスが他にいるはず」と、なってしまうのである。

それから、先回書いた人の「表」と「裏」でいえば、たいてい、女性は表がロマンチスト、裏が現実主義者、男性は表が現実主義者、裏がロマンチストである。女性は根が現実主義なので、恋愛等ではできるだけロマンチックな気分に浸りたいと思っている。だから、楽しくロマンチックに気分が盛り上がったその最後になって、「じゃあ、割り勘」では、そのロマチックな気分が一気にぺしゃんこになって、現実を見てしまったのがツライのである。女性は自分が現実主義であるゆえに、男性にはそうでないものを期待するというわけだ。

こんな割り勘の話を書いていたら、今から25年ほど前のある晩のことを思い出した。

その当時私は会社に勤めていて、あるとき、同僚の男性と二人で地方に仕事の出張で出かけたことがあった。数日間の仕事が終わった晩、せっかく食べ物と日本酒のおいしい街に来たので、では、どこかおいしい料理屋へ食事にでも行きますかという話になった。同僚の男性は、日本酒が好きで、私もおいしい食事と日本酒は好きなので、二人で料理屋へ食事に出かけた。

同期入社でほぼ同じ歳のその同僚の男性は話していて特に楽しい相手ではないのだが、二人であれこれおいしい日本酒を飲み比べて、日本酒の話で多少盛り上がって私も少々ほろ酔い気分になって、ではお勘定ということで、お店の人が勘定書きをもってきて、彼にそれを手渡した。

同僚の男性は、しばしその勘定書きを眺め、そして真顔で私にこう言ったのである。

「ねえ、ねえ、合計金額がさ、奇数で、割り切れないんだけど、1円どうする?」(彼は数学が専門である)

その言葉を聞く前は、私はほろ酔いの頭で、(彼は私よりたくさん給料をもらっているので)数百円程度彼が余分に払うほぼ割り勘で、払いやすい金額で払えばいいだろうとぼんやりと考えていた。

それが、「1円どうする?」と尋ねられて、私は目が点になり、一気にほろ酔いからさめ、「1円どうする?って私に尋ねるってことは、彼は1円もよけいに払いたくないんだ」と察した。

料理屋のテーブルで、どっちが1円多く払うか議論するのもみっともないと思い、私が「じゃあ、私が1円多く払いますよ」と言ったら、その同僚氏は「ありがとう!」とニコニコして言うではないか――その笑顔を見て、私は完全にしらふになってしまったのである(私も会社では変人で通っていたが、彼も私以上に変人で有名だった)。

翌日会社に戻り、私は社内の誰かに出張の話を訊かれるたびに、仕事のことではなく、この「1円どうする?」の話をしまくり、私のほろ酔いをぶち壊した仕返しをしてやった。

「1円どうする?」――今ではあんな変人もいたなあと、その場面を思い出すと笑いがこみあげるのだが、そのときは、「別にカップルというわけじゃないけど、せっかくおいしい食事をしたあとで、1円どうする? なんて、そりゃないだろう」という感じだったのだ。

食事やデートの最後に、お金の話で女性の気分を盛り下げて、現実に連れ戻してはいけない(お金の話をする必要があるときは、最初にする)――男性諸氏はこの鉄則を覚えておくと、きっと役に立ちます(笑)。