人は、親を踏み台にして、成長する2007年12月17日 18時58分00秒

先日、あるサイトで、「親に言われた一言で、傷ついています」という投稿に対して、「私も親にこんなこと言われて、傷つきました」という何百もの膨大なレスポンスが寄せられているのを見て、親子関係って、「永遠のトラウマ」なんだと改めて思ったものだ。

私も含めて、人生で知り合ったほとんどの人は、親との関係である種のトラウマやジレンマを抱えていた。親子関係の問題の根、それは、一言でいえば、「期待」である。親の種類にかぎらず、子供の種類にかぎらず、人間は、他の誰よりも、子供に期待し、親に期待する。つまり、「子供はこうあるべき」「親はこうあるべき」というテンコモリの期待や理想像を、自分の子供や親に押し付けるものだ。それはほとんど「親宗教」、「子供宗教」とも呼べるような、信仰に近いものである。

幼い子供から見ると、親は「神」であり、すべてのよきものは親から来るはずだと信じている。ところが、成長していくにつれて、親は食事や保護も与えてくれるけど、同時に、自分が嫌いなもの(小言、叱責、悪口、規律、しつけ、制限)も与えるようになり、「なんか、変じゃん、親って神様じゃなかったの? こんな変なものくれる神様なんか、大嫌い!」となる。親を誰より好きで、親に頼って生きているだけに、親(神)のイヤな面を見たときのショックも大きい。

では、親のほうはどうかというと、親にとっては、自分の子供は、自分の作品か投資商品という感じであり、それが自分のイメージや期待に合わないことをしだすと、これだけ手間ひまかけて育てているのに、こんな程度の成長かというような、期待はずれや失望感が湧き起こってくる。

親の人間的理性(人間脳)がちゃんと機能しているときは、「自分が思っていることを正直に子供に言ったら、子供は傷つくだろう」と自制が働き、言葉をこらえることができるが、親が生活苦やその他の過度の精神的ストレスにあるときは、自分よりも立場が弱い子供をそのストレスのはけ口にする。子供を攻撃したからって、仕返しされる怖れもないからである。

自分よりも弱いものを攻撃して、精神的安定をはかる――動物脳のストレス解消法である。そして、動物脳に特有なことは、自分が言ったこと、したことは、すぐにケロっと忘れることだ。そもそも自分の言葉にまったく無自覚で、ただストレスのはけ口に、思いつきで子供に言葉を投げつけるだけの話なのである。

ところが、言われた子供のほうは、親の言葉を何十年間も覚えていて(なにしろ、「神様の言葉」だから、そう簡単に忘れることはできない)、その間、ずっと傷つき続けている。サイトに書き込まれている、「親から言われて傷ついた言葉」をずっと読んで、私は、書いている人たちの親への怒りと、同時に、そういう言葉を子供につい言ってしまう親たちが、その当時どれほど不幸だったのかを想像してみた。

親子関係のヒーリング――それは、相手に対してもっているすべての「期待」、「親は子供を無条件に愛すべきだ」「子供は親の言うことに従うべきだ」などというような真実ではない信仰を、手放すことであり、親子関係で起きたことは、すべて起きるべき必然であったことを理解することである。

親子関係で起きたことは、学習・奮起の材料であり、親は人生の踏み台であり、反面教師なのである。そう理解できるまで、人は親子関係で傷つき、怒り、人生を後ろ向きに生き(親は過去の原点である)、前に向かうエネルギーを自分で奪っている。「親は完全無欠な神のようであるべき」という観念を捨てるとき、人は、自分の中にいる本当の「完全無欠な神」に出会う可能性が開かれる。

念のために言えば、「理解」とは、宗教系の人たちがよく説くところの「許しや感謝」とは、少し違うような気が、私はしている。「許す」という言葉には、「あなたは何か悪いことをしたけど、それを私は許してあげる」というようなニュアンスがあるが、理解とは、単に、「人がしたり言ったりするどんなことも、本人もコントロールできない、しかたのないこと」という積極的なあきらめのようなものであり、許す必要も、許される必要もないとわかることだ。

というわけで、私自身は、親を「許した」ことも、「生んでくれてありがとう、育ててくれてありがとう」と一度も親に言った記憶もない。そういう言葉を素直に言えないのが、私らしいところである。でも、今、親を心からありがたく思うのは、まだ時々私にたくさんお小遣いをくれることと(^_^)、80代になっても、相変わらず、口が元気(つまり、子供と喧嘩するエネルギーがあるということ)で、弱ってきたとはいえ、寝たきりにも認知症にもならずに、生きていることだ。


お勧めの本

「探すのをやめたとき愛は見つかる」バイロン・ケイティ著(創元社)
親子関係だけでなく、あらゆる人間関係からストレスを取り除いて、自分の中にある本当の愛を見出すための本。たった4つの質問を自分にすることで、
真理でない思考から解放される。

「人をめぐる冒険」高木悠鼓著 (マホロバアート)
 動物から人へ、人から神への意識の進化のプロセスを書いた本。人間関係に悩む人、精神世界の様々な観念に混乱している人、観念と現実のずれに悩む人にお勧めしたい。