ないものねだりの貧乏スパイラル ― 2010年04月21日 13時07分44秒
貧困に関する話で、昨年たまたま見た二つのテレビの映像が私の印象に残っている。
最初の映像は、ドイツの旧東ドイツ地区に住んでいる男性の話で、彼は8年間失業しているという。でも彼は、失業しているとはいえ、ホームレスではなく、ちゃんとしたアパートに住み、無料の食料支援も受け、見たところ健康である。私はそれを見て、8年も(!)失業していられる生活、さすが高福祉国のドイツだと思ったものである。
ところが、そんな恵まれた生活をしているその男性は、「今のドイツが嫌いだ。昔の東ドイツ時代のほうがずっとよかった」と不満たらたらなのである。
それからもう一つの映像は、生活保護を受けている日本の母子家庭の話で、ひと月15万円の生活保護で母親と幼い子供(4、5歳くらいの感じの子供)で暮らしている。母親は、自分は一日に一食しか食べず、お風呂は週に1回しか入らず、子供には飲み物も与えてあげられず、しかも自分は病気がちで通院して、働くこともできないとカメラの前で自分たちの貧しさを強調する。実際その母親はがりがりにやせていて、子供はスープとか飲み物もなく、哀しそうな顔でパンをかじっている、そんな風景であった。
この映像で、私が何より、まず不思議に思ったことは、「子供には飲み物も与えてあげられない」のところで、このお母さんは、今の時代、飲み物がどれだけ安いのか知らないのだろうか、ということだった。料理が嫌いでも、安くて簡単な飲み物(インスタント味噌汁とかインスタント・スープ、インスタント・コーヒーや紅茶、牛乳等)や安く作れる飲み物はたくさんある――私も一杯約10円のインスタント味噌汁や5円で1リットル作れるウーロン茶を愛飲している。
ひょっとしたら、テレビ局の意図で、過剰に貧しさを演出したのかもしれないが、もしその意図が、「貧しさへの同情を集めること」であるとすれば、あまり感心したことではない。
なぜなら、ある人やある状況に「かわいそう」とか「同情すべきもの」というハンコを大勢の人たちが押してしまったなら、その人は、その状況から抜け出すことがますます難しくなるからである。
これは自分の状況に対しても同じことがいえ、自分が置かれた状況や自分自身に、「かわいそう」とか、「同情すべきもの」というハンコを押せば、やはり、そこから抜け出すのが難しくなる。(抜け出したくない人は、積極的にハンコを押すといいかもしれないけど)
こう書くと意外に思う人がいるかもしれないが、もし長期的貧困に精神的原因があるとすれば、それは「プライド」である――なんで『私』がこんな程度の境遇(収入)でなければいけないのかとか、『私』はもっと世間から優遇されて(愛されて)しかるべきだ、というような「プライド」。
そういったプライドが、今与えられているもの(たとえば、失業手当とか生活保護費とか)のよさを、認識するのを邪魔するのである。
ないものを欲しがり、あるものを無視――こういうことが積み重なって、抜け出すのが困難な貧しさへ転落していく人たちが、たくさんいるのである。
個人だけでなく、町とか村とかの地域振興にも似たところがある。
今年のお正月に読んだどこかの新聞の記事で、九州地方のある島の地域振興プロジェクトの話が出ていて、その島では、島に今すでにある独特の産物や特徴をアピールすることで、たくさんの観光客が来るようになった、というような話だったと記憶している。
その関係者の一人が、「今までの地域振興は、自分の村や町に橋がないから、道路がないから、作ってくれ、というような『ないものねだり』みたいなものばかりで、それが財政を圧迫し、かえって地域経済を貧困にしてきた」という主旨のことを語っていた――「ないものねだりの貧乏スパイラル」で、一番有名になった町が財政破綻した夕張市だ。そんな例があるというのに、最近も関東のどこかの県に、この航空不況の時代でたいした需要もないのに、最初から赤字覚悟で空港ができたというから、驚きである。
今の時代、失業やリストラや病気やその他で、誰でも一時的には、失業したり、貧しくなったりする可能性があり、誰一人その例外ではないし、今日お金持ちで羽振りがよくても、明日は運命がどう変わるかは誰にも予想はできない。一時的に貧乏になったり、失業したりしたら、自分や他の人に何と言ってあげるか………ちょっと考えてみた。
*「お金はなくても、呼吸はしているじゃない?」――お金より、呼吸しているほうがずっと大事。
*「お金はなくても、本質が失われたわけじゃない」――スピリチュアルな究極の事実
*「倹約力があがる機会だね」――お金を使わず、どうやって生活するか、考えるのはけっこう楽しい。
*「働かないって、ワクワクしない?」――というタイトルの本があります。
*「働かないって、貴族じゃない?」――シンプル堂の座右の言葉。
貧乏を嫌えば嫌うほど、貧乏はますます近寄ってくる――先日どこかのサイトでたまたま見かけた言葉である。
参考図書
「金欠力」吉野信吾著 祥伝社
お金がない時期を、どう人に嫌われず、快適にすごすか指南した本。
by シンプル堂 [経済] [社会] [コメント(4)|トラックバック(0)]
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