創造(構造)と破壊(混乱) (2) ― 2017年02月22日 09時29分45秒
熱力学という学問の発展の歴史を読んでみると、なかなか興味深いものがある。それは蒸気機関の効率を向上させるために18世紀に始まった学問ながら、現在はあらゆる現象にその考え方を応用することができるとされ、この世の様々な事象はなぜ起こるのかに対する科学的な答えを提供している。
その深遠で平凡な答えとは、一言でまとめると、
「エントロピー(無秩序の度合い)が常に増大する方向へ物事は変化する」というものである。
たとえば、私たちの日常でよく見られる現象を挙げれば、
(外から熱を加えなりかぎり)50度のお湯は自然に冷めて、周囲に熱をばらまいてエントロピーを増大させる。熱は自然の状態では温度の高いほうから低いほうへ流れる。なぜなら、これがエントロピーが増大する方向だからだ。
(外から熱を加えなりかぎり)50度のお湯は自然に冷めて、周囲に熱をばらまいてエントロピーを増大させる。熱は自然の状態では温度の高いほうから低いほうへ流れる。なぜなら、これがエントロピーが増大する方向だからだ。
そして、奇妙なことに、熱力学の深遠な第二法則(エントロピーの法則)によって、宇宙は常にエントロピー(無秩序の度合い)が増大する方向が自然でありながら、私たちのまわりには仕事をするたくさんの構造体(人類を含む生物、乗り物、惑星、国家など)が出現しているということである。確かに現象的には私たちのまわりの物質世界は構造体だらけで、(災害等でなければ)混乱を見るほうが少ない。
これはなぜかと言えば、常にエントロピー(無秩序の度合い)が増大するという熱力学の法則に実際は反しているわけではなく、仕事をして構造体を作る過程で、よりたくさんの混乱が生まれ、総量としてはエントロピー(無秩序の度合い)が増大するからだ。逆に言えば、エントロピー(無秩序の度合い)が増大するゆえに、仕事が為されるということである。
たとえば、車などの乗り物は、ガソリンを消費して仕事(動力)を生み出すが、その過程で必ず廃熱を生み出し、排気を必要とする。廃熱を生み出すことで、最初より環境のエントロピー(無秩序の度合い)を増大させる。
人類の活動(仕事)はたくさんの廃熱を生み出し、それが現在の地球温暖化の問題となっている。廃熱を出さずに、つまり、環境のエントロピーを増大させることなく、人類は活動することはできない。これは人類がかかえるジレンマなのである。
私が今こうして、皆さんに読んでもらうために秩序ある文書を書こうと奮闘している最中にも、私の心身を通過するエネルギーの一部は廃熱になり、環境のエントロピー(無秩序の度合い)を増加させ、地球温暖化に加担しているはずだ(笑)。
さらにエントロピーの法則から、こういったメンタルな活動を考えてみれば、一部の人たち(文章を書くことを仕事にしている人たち)が、文章という秩序だった構造体(作品と言われるもの)を頑張ってたくさん作るゆえに、それ以外の多数の人たちの思考領域に混乱が生まれる、とも言えるのだ(苦笑)。
エントロピーについて学ぶと何が興味深いかというと、それは人間を含む生物も、エンジンで動く乗り物も、地球や惑星、太陽などの天体も、そして国家などの社会組織も、熱力学の観点から見ると、すべて「エネルギーを消費して仕事をする構造体」と見なすことができ、同じように考えることができるという点である。
人間そのもの、そして地球そのものが太陽エネルギーを消費して、仕事(創造活動)している機械なのだ。創造活動というと聞こえがいいが、その結果エントロピーを増大させ、つまり破壊や混乱を作り出し、その混乱によって事象が変化しつづけている(これがいわゆる「進化」と呼ばれるものの実態である)。
そのことを冷めて語るのか、あるいは熱く語るかは、科学者の間でも多少態度が異なるものだ。前回紹介した2人の専門家の言葉をまた紹介すると、
「世の中は、放っておけば自然に「でたらめ」になっていきます。これは大原則であり、『エントロピー増大の法則』 は決して侵されません。しかし、ある程度のエネルギーが環境から与えられると、ある局所的な部分において、あたかも『エントロピー増大の法則』に反するような現象が生じます。この現象は、『エントロピー増大の法則』の大原則から見ると、大きな流れの中にたまゆらにできた渦のようなものです。(中略)この△H環境は、『エントロピー増大の法則』の大原則に逆行する奇跡を地球上で成し遂げて来ました。(中略)
多くの原始宗教が太陽を神としましたが、これは非常に理にかなっていることです。太陽からのエネルギーの最も重要な効果は、秩序の形成です。つまり、宇宙原理である『』エントロピー増大の法則』の大原則に逆行するには、エネルギーの供給が絶対に必須であるということです。先に述べたように、極めて大きなエネルギーを与えてくれる太陽があってこそ、私たち人類は誕生することができました」
(「熱力学で理解する化学反応のしくみ」 (平山令明著 講談社)
一方で、非常に冷めて語るのは、アトキンスで「エントロピーと秩序」(日経サイエンス社)の本を下記の文章で締めくくっている。
「私たちはカオスの子供である。何かが変化するとき、その奥底では腐敗が起きている。根底にはただ、崩壊があるのみで、カオスがくい止めようのない波となって、押し寄せてきている。カオスになることは何も目的ではなく、あるのは、カオス状態に向かう方向だけである。宇宙の内部を奥深く冷静に見ると、このようななんとももの寂しい真理が見えてくるが、これこそ私たちが受け入れなければならない現実なのである。
とはいっても、まわりを見まわして、そこにある美しいものをながめるとき、あるいは意識の中をのぞきこんだり意識を自覚するとき、そして人生の楽しみをいくぶんもつようになるとき、宇宙の中がまえよりずっと豊かなものに思えてくる。しかし、これは人間の心情であって、頭ではこのように考えるべきではない。科学と蒸気エンジンのほうがずっと崇高である。科学と蒸気エンジンが手を組んで、複雑さの中に潜んでいる壮大な単純さを明かりにさらすからである」
冷めて現象を見るにせよ、不思議に思って見るにせよ、世界は混乱(カオス)によって進むという事は、熱力学という学問が発見した科学的な事実である。
エントロピーの法則から私たち素人が学ぶべきこととは、創造の裏には破壊があり、構造(秩序)の裏には混乱(カオス)があるということである。だから、前回も書いたように、創造(構造)→破壊(混乱)→創造(構造)は自然のサイクルであり、もし創造(構造)を喜ぶべきだとしたら、破壊(混乱)も喜ぶべきだということである。
ただし、創造しすぎると、つまり、無理に仕事をしすぎること=無理に構造や秩序を作りするぎると、破壊や混乱も早急に起こりやすくなる(起こる確率が高くなる)ことも理解するべきことである。最近、よく話題になる過労死や過労自殺の問題も、エントロピーの法則から考えれば(常識的に考えてもそう言えるが)、仕事をしすぎるので、大規模な破壊(極端な場合は人間構造体の死)も起こらざるをえないということである。
そして政治の世界にもエントロピーの考え方は応用できる。アメリカの新大統領トランプさんのように、極度に自分勝手な秩序を早急に築こうとする指導者は、いっそうの混乱(カオス)を国の内外に生み出し、まさにアトキンスが言うように、「カオスがくい止めようのない波となって、押し寄せてきている」……
もし次に、自分の世界の中の何かの構造体が突然壊れることがあったら、たぶんどこかで頑張りすぎたか、無理をしているか、無理をさせすぎているか、物事をコントロールしようとしすぎたか(コントロール願望=自分にとって都合のいい秩序を作りたいという願望)、だと思って振り返ってみるといいかもしれない(私も今年は新年早々、まわりの小さな構造体の一部が突然数個ほど壊れ、慌ただしい一年の始まりとなった)。
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by シンプル堂 [科学] [社会] [コメント(0)|トラックバック(0)]
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