言葉の向こうに人がいる2023年05月18日 10時41分33秒

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(英語と日本語通訳の音声と日本語字幕付き)。現在(1)から(4)まで公開中。


ここ数年、政治家や官僚など社会的地位がある人たちのセクハラ、パワハラ的言葉が非難されたり、炎上したりする話がよくネットに出ている。政治家や官僚、その他社会的地位などがある男性たち、権力者のセクハラ、パワハラなどは、大袈裟に言えば、歴史の始まりからあり、今に始まったことではないが、最近の違いは、社会(とくにその中の女性たちが)が以前よりはるかにセクハラ、パワハラ的言動、ついでに言えば、差別的言動に非常に敏感になっていることだ。

最近読んだ記事で興味深かったのは、某県の副知事が、海外のイベントで、関連団体の女性代表に、「(あなたは)また違う男の人を連れ回しているね」と言ったことで、セクハラ的言動をされたと、その女性から訴えられ、そして、反省し(反省させられ)、謝罪した(謝罪させられた)という話である。

その副知事さんは、自分が気づいた事実として、何気なく言った言葉が相手からセクハラ認定され、たぶん驚いたのではないかと思うが、この人のその反省の意味が、「ああそうか、『また違う男の人を連れ回しているね』という言葉そのものが、使ってはいけないセクハラ的言葉なのだ」とただ学習するだけだと、またいつか地雷を踏む可能性がある。

この状況での何が一番問題かと言えば、私が思うに、まずはその言葉そのものより、海外の公のイベントの場で、公けの立場で出合っている者同士の関係(この場合は、副知事と団体代表という立場で)、仕事とはまったく無関係の、言う必要のない話を相手の女性にふっていることだろう。

それに加えて、女性が、「また違う男の人を連れ回しているね」の言葉(ついでにさらに言えば、「連れている」ではなく、「連れ回す」も、否定的なニュアンスが含まれることが多い)を聞いて不快になったということなので、それはたぶん、副知事さんが無意識に込めたかもしれない、「君は、遊び人だね」とか、「外国人の男たちとチャラチャラしおって」みたいな侮蔑の意味を相手に感じ取られて、それが一番の致命傷になったのではないかと想像する。

一般的に言って、女性は言外の意味を察するのが得意である(ときには、察しすぎて疲れるものだ)。仮に男性が、「〇〇さんはまた違う男の人を連れ(回して)いるね」に、「あなたはモテるんだね」という純粋な誉めの気持ちを込めて発した場合、セクハラとは認定されない場合もあるだろう。

では、こういった状況で、代表が男性で、副知事さんが女性だった場合、同じように、「あなたは遊び人だね」とか、「外国の女とチャラチャラして」という言外の意味を込めて、「また違う女の人を連れ回しているね」と副知事さんが言った場合、セクハラで訴えられる可能性はどのくらいあるだろうか? たぶん、少ないだろうと予想できる。その理由はまず、男性は言外の意味を感じることが不得意な人たちが多い。そして、男性の場合、「また違う女の人を連れ回しているね」という言葉で、モテる男と認定されたようで、むしろうれしいかもしれない。

「〇〇さんはまた違う女(男)の人を連れてるね」ぐらいの言葉は、世間ではよく聞く言葉で、ときには相手に面と向かって冗談ぽく言う人さえいるし、様々な下記のような言外の意味をこめることが可能だ。

「〇〇さんは遊び人だね」
「〇〇さんは、それほどハンサム(美人)じゃないのに、意外にモテるんだね」
「〇〇さんはモテて、うらやましい」
「〇〇さんは、あんなに遊び歩いて、大丈夫?」

私がなんでこんなどうでもいい話をくだくだ書いているかというと、言葉とは単に、言葉それだけで意味が完結するわけではなく、状況、言葉を発する人の立場、受け取る人の立場、双方が抱いている観念や感情によって、様々に解釈が可能で、それが人と人のコミュニケーションを複雑で難解なものにしているという事実に、もっと人が気づくべきではないかと思っているからだ。

日本の政治家、官僚の皆さん、社会的に地位が高い、特に男性の皆さん、特に昭和文化を背負っているような方々は、一方的にしゃべることに慣れているせいか、あるいは、地位のある自分に得意になってしゃべるせいか、「自分が発する言葉の向こうには人がいる」ことをまったく考慮にいれない人たちが多い。つまり、しゃべる前に、自分がこの発言をしたら、聞いている人(たち)はどう感じるのか、さらに、今の時代の国民の風潮として、その発言は許されるのかどうか、ということを考えないので、自分が無意識に思っていることが、ぽろっと出て、セクハラ、パワハラ、差別発言と認定されてしまうのだ。

こんなことを書いている私だって、言葉によるコミュニケーションは決して得意ではなかったし、今でも日々学ぶという感じである。30代になってから、ようやく他人の心を思いやる余裕が出てきて、「人は言葉に非常に弱い(傷つきやすい)生き物である」ことを知るようになった。そして、しゃべる前に相手の存在を意識するようになり、それからは、できるだけ他人を傷つけないように、言葉を使うことを心がけるようになった。それでも、今でもたまに、「地雷」を踏むし(苦)、言葉を仕事の道具としている立場のため、私の言葉で人を不快にすることがあることは、避けられないだろうとも、自覚している。

最近では、「コミュニケーション障害(略して、コミュ障などともいうらしい)」という言葉があるくらいで、人と人のコミュニケーションの困難さは一般にも知られるようになった。自分自身の経験から言えることは、コミュニケーション能力とは、生まれつきのものではなく、ある程度は練習によって上手になる、逆に言えば、練習しないとうまくはならないということで、このことはほとんど理解されていない気がする――発達障害や自閉症などの脳の機能のせいで、コミュニケーションがうまくいかないという人たちもいるが、その人たちでさえ、学習によって、ある程度はコミュニケーション能力は改善すると言われている。

そして、ついでに言えば、スピリチュアルな目覚めとコミュニケーション能力は必ずしも一致しない。つまり、自分の本質に目覚めたからと言って、他人との言葉によるコミュニケーション能力が一気に上がるというわけではない。

そのよい事例が、ダグラス・ハーディングとラメッシ・バルセカールだ。確かに彼らは実人生でも優秀な人だったが、さて、コミュニケーション能力に関しては、ハーディングは30代で自分の本質に目覚めてからも、自意識なく普通に人と話せるまで、10年以上の年月がかかったと伝記にあるし、ラメッシ・バルセカールも、元々人としゃべるのが好きではなく、目覚めた当初もほとんど人としゃべらない人だったと書かれている。それがお二人とも、私がお会いした80代の頃は、自分が出会う人と誰とでも打ち解けて話していたので、彼らにしても長い年月をかけて、少しずつ他者とのコミュニケーションを学んでいったのだということがわかる。

ということで、ハーディングの言うところの人間クラブは様々な人たちがいて、コミュニケーションはときには、非常に困難で苦痛のことも多いが、「言葉の向こうには人がいる」、さらに、その「人」の背後には、すべてに共通する本質があるということを心に留めて、お互いに人間クラブでの修行(笑)に(ときにはイヤイヤ)励みましょう。


[昨年の発売された本]

『仕方ない私(上)形而上学編――「私」とは本当に何か?』アマゾン・キンドル版(税込み定価:330円)

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『仕方ない私(上)形而上学編――「私」とは本当に何か?』は、過去10年ほどの間、私が主催している会で、ダグラス・ハーディングの実験、ラメッシ・バルセカール&ニサルガダッタ・マハラジについて話していることをまとめたものです

会にすでに参加されたことがある方には、重複する話がほとんどですが、会で配った資料を体系的に読むことができ、また必要な情報をネット上で即アクセスできる利点があります。付録に、『シンプル道日々2――2019年~2021年』)を掲載しています。(総文字数 約124,000字――普通の新書版の1冊くらいの分量です)

『仕方ない私(下)肉体・マインド編――肉体・マインドと快適に付き合うために』は、肉体・マインドとは、どういう性質のものなのか、それらとどう付き合ったら快適なのか、それらを理解したうえで、どう人生を生き抜いていくのか、主にスピリチュアルな探求をしている人たち向けに、私の経験を多少織り交ぜて書いています。肉体・マインドは非常に個人差のある道具なので、私の経験の多くは他の人たちにはたぶん役には立たないだろうとは思うのですが、それでも一つか二つでも何かお役に立てることがあればいいかなという希望を込めて書きました。付録に、『シンプル道日々2――2019年~2021年』)を掲載しています。(総文字数 約96,500字)



















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