人間は「貨幣」という考え方2013年02月05日 09時35分35秒

(2013年は最初何回か、経済から話題を拾っていく予定です)

先月の新聞に、今非常に先鋭的な活動をしている建築家、坂口恭平さんへのインタヴュー記事が掲載されていて、それを興味深く読んだ。(朝日新聞1月10日号記事――才能の交易こそ新しい経済 総理大臣としてゼロ円革命)

彼は、熊本に「新政府」を作って首相になり、そこに東日本大震災の被災者の人たちを無料で泊めたり、自分の携帯電話番号を公開し、「死にたくなったら『いのちの電話』へ」という活動をやったりしているそうである。

「無償の活動って、大変でしょう?」と言う人たちに対して、彼は、「これは金稼ぎだから、金がチャリチャリ自分のところに来ると思えば、うれしいし、無償の贈与って、豊さの象徴でしょう。だから、自分がやっていることは相互扶助とか社会貢献とか善意ではなく、ただ自分が楽しいからやっている創造行為です」という主旨の返答をしている。

彼の主張は、「人間は貨幣であり、次の経済は、人が円に代わり、人集めとお互いの才能の交易こそが、経済の主流になる」というものだ。

彼の主張、「人間は貨幣」は、突飛に聞こえるが、実はテレビ業界、広告業界では大昔から使われている考え方であり、現代ではネット広告・検索企業も大々的に使っている手法である。つまり、テレビ業界・広告業界、ネット広告・検索企業は、たくさんの人の気(エネルギー)を集めることで成り立っている商売である。「人間は貨幣」はまた、私が「楽しいお金」の中で述べた「お金の本質は人間のエネルギー」を、言い換えた表現でもある。

私たちがテレビを見ているとき、たとえ無料のテレビ番組でも、私たちはテレビという「集金機」を通じて、自分のエネルギーをテレビに出演している人たち、広告を出している企業、広告産業に差し上げている。テレビ業界の人たちが視聴率に一喜一憂するのは、たくさんの人が番組を見れば見るほど、人の気(エネルギー)が「集金機」を通じて集まる、つまり、金が儲かるからだ。(ついでに言えば、こういった無料のブログも同じことである――読んでいただいている皆さんには、「関心」というマネーを払っていただいて、感謝である)

だから、坂口さんの主張は昔から一部の業界で使われている考え方を、新たな発想で提出しているというわけである。どこが新しいかというと、今までの社会は、才能がたいしてない(と思っている)大多数の人たちが、才能のある(と思われている)ほんの一部の人たちを賞賛する(=「関心」という名のマネーを過剰に支払う)という一方的アイドル化が行われてきたが、これからの社会では、あらゆる人が自分のもっている才能をお互いに交易しましょう、というものである。彼の呼びかけは、「そこにいる死にたい気分のやつよ、死にたくなったら、まず俺のところへ電話して。そして少し元気になったら、お前も何かできることをやれよ。お前にだって、何か一つくらい好きなことややりたいことがあるだろう」という感じだ。

彼は自分の活動を「ゼロ円革命」と名づけ、日本銀行券という種類のお金に支配され、マインド・コントールされてきた今までの枠組みからの脱出を過激に呼びかける。しかし、坂口さんも別に日本銀行券を否定しているわけではなく、日本銀行券という目に見えるお金は、お金の形態のone of them でしかなく、その日本銀行券をたくさん集める(つまり、金儲けがうまい)のも才能の一つであるが、その才能もone of them でしかないということを言いたいわけである。one of themでしかないのに、お金を稼げるかどうかで、社会のヒエラルキー(階級)を作ることを否定しているのだ。

念のために言えば、私自身も日本銀行券は嫌いではないし、その魅力と魔力を十分に知っている――私は、買い物するとき、あんな20円の紙切れ一枚(一万円札の製造コストは20円くらいだそうである)で、山ほどの物が買えるのを見るとき、その日本銀行券を眺めて驚くことがある―いやいや、これはマジックだなと。

お金(貨幣)とは、元来は、人々が自分の労働で生み出したものを、お互いに交換するための媒体として創造されたものである。だから、本当は、お金よりも、人間の労働とその労働が生み出したもののほうが、お金(貨幣)よりはるかに価値があるのだ。それを忘れて、媒体のほうが、人間よりも偉くなり、人間はその奴隷のようになっていることが、現代世界がかかえるみじめさの一つである。

そのみじめさから抜け出せるかどうかが、坂口さんのいう「革命」でもあると思う。日本銀行券にひれ伏さず、同時に日本銀行券とは現実的につき合い、日本銀行券をたくさんもっている人は、楽しく自分と他人のために使い、日本銀行券をたくさんもっていない人でも、自分の才能・能力や労働を提供することができる。仮に無職で無一文だとしても、その人にはまだ一番貴重なもの、「意識」と「呼吸」が与えられている。彼の言う「革命」は、決してハードルは低くはないが、実行できないほど困難ではない。

[お知らせ]

*2013年3月23日(土曜日)「楽しいお金ワークショップ」(広島市)
詳細は下記へ
http://www.simple-dou.com/CCP037.html
 
*2013年3月24日(日曜日)「私とは本当に何かを見るワークショップ」(広島市)
詳細は下記へ
http://www.simple-dou.com/CCP038.html
 
*「1994年バーソロミュー・ワークショップ・試聴版MP3ファイル(東京会場)(京都会場)」が、下記のサイトより無料ダウンロードできます(1ファイル140MB録音時間約76分―ダウンロード時間はパソコンの性能にもよりますが、数分くらいです)

 





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