U.G.クリシュナムルティ『悟りという謎』4 ― 2026年08月03日 14時28分15秒

[ お知らせ]
『静寂の雷鳴』(ジョエル・ゴールドスミス著) 電子書籍版発売


皆様、暑中お見舞い申しあげます。熊本地方の皆様、地震お見舞い申しあげます。

U.G.クリシュナムルティの『悟りという謎』の翻訳を紹介したYoutubeの動画もあと1回を残すのみになった。ようやく終わりが見えて、ほっとしている。正直な話、ここ数か月は動画作成が非常にしんどかった。そして、この「しんどさ」には既視感(デジャビュ)があって、この感覚は20代の後半、私がU.G.の天敵(笑)、J.クリシュナムルティの本を熱心に読んでいた最後のほうに感じていた感覚に似ていること思い出した。

J.クリシュナムルティの本を読んで、理解できないイライラと不満がどんどん募り、ある日私は読んでいたJ.クリシュナムルティの本を壁に向かって投げつけた。私が本に暴力を振るった生涯たった一回の滑稽な思い出である。

今回のUGの言葉も理解できないことが多かったが、理解できないことは(←どうでもよく)今回はストレスにはならず、むしろ理解できた彼の言葉がなぜかしんどかった。

J. クリシュナムルティとU.G.の手法(という言葉を、二人は否定するだろうが)は、非二元の真理に関する正論を説くということで一致している。「グル(先生)もワークも本も何も非二元の真理の目覚めをもたらすことはできない」(←まったく正しい!)。このように説かれると、彼らの言葉を聞いている人(というよりマインド)がどんどん逃げ道をふさがれ、外側のものに頼る気を失い、途方にくれる。すべてをあきらめたとき、ひょっとしたら運命があれば、何かが起こるかも……という感じだ。

U.G.は幼少時から先生たちの元で誰よりもたくさん修行をした(家系のせいで、修行をさせられた)。そして、おそらく若い頃は本もたくさん読み、そして、何よりもたくさん自分に質問し、考えたことだろう。考えることができなくなる究極まで考えたことだろう。そして、彼はまた自ら神智学のグルとして宗教ビジネスにも関わっていた。彼の言葉、「自分の過去の経験の何一つ、役に立たなかった」という言葉は、彼の長年の経験から出た言葉だ。

でも彼の言葉を聞いているほとんどの人はおそらく彼ほど修行もしていないし、経験もないし、考えてもいないし、本も読んでいないかもしれない。まだグルめぐりにも読書にもワークにも飽きていないのだ。特にまだ若ければ、なおさらそうである。20代の頃の私は思ったものだ。あらゆることを充分に経験した老人に、「○○なんて役にたちませんよ」とか「○○なんてつまらないですよ」とか言われても、そういった言葉は経験の乏しい若い人間にはほとんど説得力がない。

むしろラメッシ・バルセカールの言葉のほうがはるかにマインドにとっては現実的で説得力がある。彼は言う。「何でもやりたいことをやってください。瞑想、読書、ワーク、考えること、グルのところへ行く。それらは役に立つかもしれないし、役に立たないかもしれないし、抜け落ちる時が来れば、自分の意志ではなく、自然に抜け落ちるでしょう」。考え方としては、J.やU.G.よりこういうラメッシの言葉に私は共感する。それにもかかわらず、なぜか私はU.G.が好きなのだ。

U.G.は人々が自分のところへ話を聴きに来ることを嫌っていたが、私に言わせれば、本当にイヤなら、普通に働く生活をすればよかったのにと思う。存在感を醸し出して、何時間も壁の時計なんか眺めている(笑)から、「この人、なんかすごい人かも」と思わせてしまうのだ。ところが彼は普通に働くこともできず、恋人や友人宅に居候をして過ごしている。本書の中ではないと思うが、あるとき誰かが彼に「あなたはなぜ働かないのですか?」と尋ねたら、「私は銀のスプーンをくわえて生まれてきたのだ(=自分はあくせく働かなくても、暮らしていける運命に生まれついている)」と答えていた。 (←「born with a silver spoon in one’s mouth 」という英語の慣用表現は、元々は「よい星の下に生まれる、金持ちの家に生まれる」くらいの意味)

彼は普通に働くこともできないけれど、話すのもイヤで、だから、時計や花を眺めて日々を過ごしている。仕方なく話すときは、「何で君たちはこんなつまらない質問をして時間を無駄にしているのか?」と、いら立ちを隠さない。そして、彼の言葉から察するに、彼のところへ来ている人たちの多くがJ.クリシュナムルティの信奉者たちだろうと思われる。J. クリシュナムルティの言葉を長年聴いたり読んだりしたあげく、埒が明かないので、U.G.のところへ来ている「J. クリシュナムルティ難民」だ。彼らは「U.G.はJ.クリシュナムルティの影響で覚醒した」という話を聴きたいし、そういった話を自分にも役立てたいと思っている。ところが、U.G.は激しくそれを否定し、影響を否定するどころか、J. クリシュナムルティの教えそのものを「嘘っぱち」と完全に否定する。

すべてを否定し、否定し、否定し、自分の言葉さえ否定する究極の否定という正論--彼の言葉は誰の慰めにも、役にも立たないけれど、もし彼が語ったことから一つだけ覚えておくべきことがあれば:

変容する自己も、覚醒する自己も、悟る自己も存在しない。

ということだ。それを確かめるには、ただ自分の注意の向きを自分側に180度回転するだけでいい。たったそれだけ!(←ハーディングの実験参照)。

ということで、U.G.クリシュナムルティ『悟りという謎』の動画をお時間を使って最初から最後まで視聴してくださった皆様、お疲れ様でした。皆様には表彰状を差し上げたいくらいだ。

「あなたは珍獣の身も蓋もない言葉を最後まで視聴しました。その忍耐を称えます!」


参考サイト



[昨年出版された本]

*『頭がないということ――禅と明白なことの再発見』発売

(ダグラス・ハーディング著  ナチュラルスピリット発行)

定価:1,870円(税込み)ページ数:163ページ




*『自己覚醒へのマスター・キー』


ニサルガダッタ・マハラジの師の本、初邦訳!

価格:本体1800円+税
ページ数:176ページ


[電子書籍版発行]

*『頭がない男』電子書籍版

価格:1,980円(税込み)

知られざる天才哲学者、ダグラス・ハーディングの生涯と哲学をイラストと文章で描いたグラフィック伝記。


*『猿笑非二元講座』

Youtube で公開している『猿笑(さるわらい)非二元講座』の電子書籍版。



[2023年に出版された本]

*ジョエル・ゴールドスミス著『静寂の雷鳴』

本体価格:2,380円+税
本文ページ数:333ページ
発行:ナチュラルスピリット



[その他の本]

*『仕方ない私(上)形而上学編――「私」とは本当に何か?』アマゾン・キンドル版(税込み定価:330円)

目次の詳細は下記へ。

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*『仕方ない私(下)肉体・マインド編――肉体・マインドと快適に付き合うために』アマゾン・キンドル版(税込み定価:330円)


目次の詳細は下記へ

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コメント

_ kimi ― 2026年08月03日 22時34分12秒

U.G.とJ.クリシュナムルティの言葉がもたらす「しんどさ」の質の違いが、とても率直に書かれていて、興味深く拝読しました。

理解できない部分よりも、むしろ理解できてしまう部分が重く響くという感覚に、深く共感します。

動画シリーズの完走、本当にお疲れさまでした。U.G.という稀有な存在を最後まで追い続けられた高木さんのご尽力に、心より感謝いたします。

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