今さらですが、手塚治虫2019年05月05日 10時27分21秒

ここ二か月ほど、手塚治虫の漫画を読みふけっている。

なぜ今になって、手塚治虫(1928年-1989年)かというと…

たまたま2月に読んだあるインタビュー記事の中に、手塚治虫の漫画に言及があり、ちょっと興味を惹かれたからだ。幸い、図書館に手塚治虫全集が入っている。

実は、子供の頃読んだ「リボンの騎士」、テレビで見た「鉄腕アトム」、大人になって読んだ「ブラックジャック」以外、ほとんど手塚治虫の作品を読んだことがなかった。「ブッダ」、「火の鳥」など手塚治虫の主要作品を読みたいと思いながら、私はお金を出して買ってまで読むほどの漫画の愛好家ではない。

それでこの機会に、主要作品をかたっぱしから読み漁り、「陽だまりの樹」、「ブッダ」、「火の鳥」、その他全部で40冊くらいを読んだ。こんなに漫画を集中して読んだのは、たぶん子供の時以来である。マインドの集中力がいらないので、気軽に読めるのが漫画のいいところである。

改めて驚いたことは、手塚治虫って、こんなに多作で、幅広いジャンルを描いているんだ、ということだ。SF、歴史、子供向け、恋愛、その他。しかも早死である。短い期間に膨大な作品。たぶん、仕事中毒の人だったのだろう。

それからもう一つ驚いたことは、彼は今日のAI(人工知能)時代、そしてこれからやって来るかもしれないAIによる人類支配の時代をはるか昔に予見していたことだ。

彼の作品の中に、人間のように話し、考え、行動し、しかも人間を超える能力をもつ存在――いわゆる人造人間――を創造したいという科学者たちがよく登場する。そして、そういった科学者たちが創造したものが、逆に人類を混乱させる、あるいはどちらがどちらを支配するかをめぐって、人類と対立するというテーマがある。

1949年の作品、「メトロポリス」の最後は、次の文章で締めくくられている。

科学の最高芸術である生命の創造はただむだに人間社会を騒がせただけであった。おそらくいつか人間も発達しすぎた科学のためにかえって、自分を滅ぼしてしまうのではないだろうか?

もう一つ彼の作品に色濃く流れるものは、仏教的因果応報、輪廻転生の思想である。彼は「ブッダ」を描くくらいだから、仏教思想をよく知っていたと思われるが、でも同時に、宗教が結局のところ政治の権力闘争の道具に使われるあやうさもよく描いている。

「火の鳥」の中で印象的だったのは、奈良時代を描いた「鳳凰編」:

(あの有名な奈良の)大仏建造のための資金集めに奔走したあげく、結局仏教が政治の道具として使われたことを嘆いて自ら死ぬ僧がこうつぶやく。「宗教など、くだらない。私はただ政治に使われた道具だったのだ」

それから、今から数千年(?)先未来のシャドー(影)対光一族の教団対決、そして奈良時代の狗族対仏教の対立を描いた「太陽編」:

それまで虐げられていたシャド―が権力を握ったとき、その指導者はこう言い放つのだ。
我々は新しい宗教を作り、全人類をわれわれに従わせる。信じないものはかたっぱしから処罰

このくだりを読んで、「数千年先の未来は、全世界が北朝鮮か!」と、私はツッコミを入れたが、たぶん、そうなるのかもしれない(他の作家のSF小説でも、巨大宗教教団とAI一族が入り乱れて、権力闘争を繰り広げる世界が描かれているのを読んだことがある)。

「ブッダ」も大変面白く読めた。ブッダの生涯、そしてブッダが生きた時代のインドの状況も詳しく描かれ、インド史の勉強にもなってよかった。

すべての人の平等を説くブッダの教えは、その時代の宗教的権力者からは嫌われ、迫害の対象となる。手塚治虫が描くブッダは、高見から説教する人ではなく、苦しんでいる人と一緒に苦しむとても人間的なブッダの姿だ。

そして、長年、苦楽をともにした愛弟子が、昔自分の親を殺した敵への復讐心に駆り立てられて、戦争へ出かけ、結局死んでしまい、ブッダが、「自分が長年教えたことは無駄だったのか?」と号泣する場面は、私にとってはブッダ全編の中でも一番印象的な場面だ。

今も昔も、「平和と平等」は人間のマインドには本当には届かず、むしろ「復讐するは我にあり」のほうが、はるかに人間のマインドにはアピールすることが、「ブッダ」「火の鳥」の中でも繰り返し描かれている。

ブッダがもし、自分が生きた千年後(奈良時代)の日本での仏教振興を見たら、喜ぶのか、それとも悲しむのだろうか…大勢の庶民を犠牲にして建てられた大仏を見て、「こんなものは、くだらない」と言うかも、だ。たぶん、仏教や政治の権力者たちより、この時代の仏教支配に対抗して狗族のために戦った犬上宿禰とむしろ気が合ったかもと、私の中で勝手に「ブッダ」と「火の鳥」をつないだ物語を想像してみた。犬上宿禰は「火の鳥」の全登場人物の中で、私が一番気に入ったヒーローである。

あともうしばらく、手塚治虫漫画タイムが続きそうだ。


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終活モード(愚&笑)2019年05月29日 16時34分21秒

ここ数年すっかり終活モード&ムードである(愚&笑)。「終わり」のための準備をしなければ、という思考がやたらわく。何の「終わり」なのか、自分でも実はよくわからない…たぶん、この人間物体の終わりのことだろうと思う。

20代、30代、40代は、ずっと行き当たりばったりで生きてきた。つまり、先のことなどまったく考えずに、そのときそのときの適当な選択によって生きてきた。何かの目標さえほとんどもったことがなかった。

先のことを考えなかったのは、よくスピリチュアルの世界で言われる、「今ここに生きる」という観念の影響で、何か将来のことを考えるのは悪いことのように思い込んでいたせいでもあったと思う。

それが少しずつ変わったのは、肉体年齢が50代になってからだ。終わり(つまりは、肉体の死)を強く意識するようになった。それは若い頃、観念的に死を考えたのとは違って、現実感を伴って、終わりを考えるようになった。そして、この肉体人生の終わりを意識するようになってから、「終わりから」考える習慣に移行し、私はしだいに計画的で、目標志向になった(笑)。60歳を過ぎてからは、いっそう終活が進み、終活セミナーにもたまに出かけている。

終活の基本は「捨てる」で、捨ててかまわない物事は全部捨てる。若い頃から断捨離派なので、捨てるのは全然抵抗がないし、捨てると心身が軽くなる。

そして、どうしても捨てることができない物事だけを、残すべきもの、やるべきこと、やりたいこととしてリストアップし、少しずつ作業を進めている。

たぶん、やるべきことはやり終えるだろうけど、仕事に関しては、私は量産できないタイプなので、やろうと思っていること(翻訳と著作)は、全部はできないかもしれないとあきらめている。

とりあえず、今の健康状態から、残りの肉体寿命を勝手に予測してみる(愚)が、本当はその「終わり」が明日なのか、1年後なのか、10年後なのか、20年後なのかは、神の意志にかかっている。

さて、先日からラメッシ・バルセカールのPointers from Nisargadatta Maharaj(ニサルガダッタ・マハラジの教え)の本の編集作業を少し開始した。非二元の教えに関する本としては、私にとっては最高の本なので、作業にも力が入る。まだ体力の余力のあるときに、本書の出版が実現予定になり、とても喜んでいる。(本書については、出版が近くなりましたら詳しく紹介します)

その本の中で、マハラジは繰り返し言っている。「誰も生まれず、誰も死なない」
死ぬべき「誰」も「生きるべき」誰もいず、行為している「誰」もいない……

そうであるのに、何か生きている者(物)がいるような感じがして、その「もの」が明日のことを、「自分の終わり」を、考えているように見えるから滑稽というか、マハラジがよく言うところのマーヤー(幻想)の策略なのであろう。


[お詫び]
前回のブログで引用した「復讐するは我にあり」の解釈が間違っているというご指摘をいただきました。ご指摘くださった方、ありがとうございました。

この言葉の正しい意味は新約聖書「ローマ人への手紙12章19」に書かれています。

愛する人たち、自分で復讐せず、神の怒りに任せなさい。『復讐はわたしのすること、わたしが復讐する」と主は言われる』と書いてあります。


[イベント]
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