心の中のカルト(1)2021年03月07日 11時11分08秒

ジョエル・ゴールドスミスのThe art of spiritual healing については、発行時期が正式に決まりましたら、残りを書きます)


先日、『ドアの向こうのカルト』(佐藤典雄著 河出書房新社発行)という本を読んだ。本の内容は、あるキリスト教系の宗教教団で9歳から35才までの26年間を過ごした人が、その教団に入ったときから脱会するまでの日々をつづった本だ。

その本によれば、この教団は世界に5百万人以上、日本に数十万の信者をかかえているそうである。私の自宅にも何度か勧誘に来られたことがあるし、コロナ以前には、街角で熱心に勧誘活動をしている姿もよく見られた。皆さん、非常にきちんとした正装をしているのが特徴で、自宅マンションに正装の中年・初老の男女が出入りしていのを見るとき、勧誘に来ているのだとわかる。

『ドアの向こうのカルト』は、「私はこのカルトに入ってこんなに酷い目に会いました」というようなよくありがちなカルト宗教の被害を訴えるというものではなく、自分がその教団に関わっていた日々を非常に冷静に振り返り、知的に観察し、カルトの本質を描き出している。そして、同時にカルトとは、スピリチュアルな道にいるあらゆる人が、注意していないと陥る心の罠でもあることを教えている。

私が本書を読んで興味深く思ったことは、世界中の、そして歴史上存在してきた、カルト的宗教、原理主義的宗教、宗教系テロリストの集団はみなほとんど同じ思考回路にあるということだ。彼らの共通する信念を列挙してみると:

1私たちが信じている信仰は絶対的に正しく、他の信仰(宗教)は間違っている。
2私たちは神に選ばれた民(選民)である。
3自分たち以外の世界は敵である。
4同じ信仰の者以外と付き合ってはいけない。
5世界は滅び(ハルマゲドン)、あるいは地獄に向かっており、自分たちだけが救いの道にいる。

それ以外に、著者が入っていた宗教では、子供の教育の軽視があり、その理由は、どうせハルマゲドンが来るので、学校に行って学歴を得たり、職業訓練を受けたりしても無駄であり、それよりも、宗教活動に時間を割くべきという考え方から、らしい。

こういう宗教をまったく知らない人たちにとっては、何という奇妙なことを信じていることかと、不思議に思うはずであり、今回ジョエル・ゴールドスミスのThe art of spiritual healingの本の作業をするにあたって、旧約聖書と新約聖書を参照する機会が多くあったので、私もなぜ「敵でさえ愛せよ」と教えたイエス・キリストの教えがこうもねじ曲がって解釈されるようになったのか、考えてみた。

一つは聖書の中で語られる言葉が、あらゆる解釈が可能で、それを読む側の知性によって、どうにでも解釈されうるという問題がある。それから二つ目に、聖書、特に旧約聖書は、「戦い」の話と言葉が多く、「神のために戦うことが正義」とされているという印象を与えるからだと思う。

旧約聖書の言葉を少し紹介すると:

心を強くし、勇みたちなさい。アッスリヤの王をも、彼と共にいるすべての群衆をも恐れてはならない。おののいてはならない。われわれと共におる者は彼らと共におる者よりも大いなる者だからである」(歴代志下32章7)

「彼と共におる者は肉の腕である。しかしわれわれと共におる者はわれわれの神、主であって、われわれを助け、われわれに代って戦われる」(歴代志下32章8)

「わが神、わが岩。わたしは彼に寄り頼む。わが盾、わが救の角、わが高きやぐら、わが避け所、わが救主。あなたはわたしを暴虐から救われる」(サムエル記下22章3)


どれだけ「戦い」が好きなのか(笑)と思うほど、旧約聖書は戦いと勇ましい言葉に満ちている。新約聖書では、「戦い」のトーンはかなり落ちているが、それでも自分たち(キリストの教えを信じる者たち)と信じない者たちの間の「戦い」があるという印象をところどころで与えている。

なぜこんなに「戦い」が強調されるのかと推測してみるに、今でこそ、キリスト教は世界の一大勢力になったが、今から数千年前のモーセ、イエス・キリストの時代、彼らは圧倒的に社会の中の少数派で、虐げられる側だったからだと思う。「自分たちは少数なので、みんなで一致団結して、自分たちを虐げる者たちに立ち向おう」という気持ちのせいで、内なる神性に目覚めたり、キリストの教えの本質を理解したりするよりも、しだいに自分たちの勢力拡大や「戦い」そのものが生きがい(笑)になったりするのかもしれない。

話を現代のカルト的宗教に戻すと、「自分たちは少数なので、みんなで一致団結して、自分たちを虐げる者たちに立ち向おう」の考えの変形が選民思想であり、世界を敵対視する考え方を生むのだと、私はそう感じている。

少数派である人間が頑張り続けるためには、自分たちは他のみんなとは違う、自分たちは特別であるという「プライド」が必要であり、また仲間で一致団結するためには、「敵」が必要である。選民思想は宗教・スピリチュアル志向の人間マインドのプライドをかぎりなくくすぐり、「敵」は自分たちの団結を高揚させる。だから、必然的に彼らは世間を「敵」にしなければならなくなる。

こうやって、自分たちはキリストの教えを正しく実践していると思いながら(当然のことながら、こういった教団の人たちは自分たちをカルトだと思ってはいない)、元々は真理の探究という目的で作られた組織が、いつのまにか組織拡大、信者拡大、集金集団と化し、その教団にすべてを捧げて、信者本人も、またそのまわりを取り巻く家族も精神的にも財政的にもボロボロという結末に陥る人たちが多い。

カルトという心の罠に落ちてしまう人たちは、スピリチュアルな探求の本質、真理の探究という本質を理解せずに、集団でみんなで「同じことを信じたり」、信者獲得活動をしたりすることが、自分をより真理へ、あるいは(キリスト教系の教えであれば)、神へ近づけてくれると信じているようである。

しかし、スピリチュアルな探求、真理の探究は、私の理解によれば、以下のようなものだ。

*「集団で同じことを信じる」ことではなく、きわめて個人的なものである。真理の基盤は、一人ひとりの目覚めに依存し、他のいかなる人や集団(先生や仲間)にも依存していない。

*したがって、家族、友人などを無理やり勧誘したり、信者の拡大を目指すことは無駄(笑)

*真理に目覚めても、それはいかなる意味においても、プライドを拡大することにはならないし、世界を敵対視することにも、軽蔑したり、バカにしたりすることにもなるはずがない。

私は、スピリチュアルな探求において、「プライド」などの罠に落ちないために、いつもラメッシ・バルセカールの言葉を心に留めている。ラメッシは、「皆さんがもし私の教えを正しく理解したなら、罪悪感、憎しみ、嫉妬、プライドが減少し、心の平和を感じることが多くなるでしょう」と言い、彼の言葉は、スピリチュアルな探求の進歩をはかるとてもよい目安だと私は思っている。

もしそれぞれのスピリチュアルな探求の道にいて、もちろん、特定の宗教教団の道にいる人たちであっても、「罪悪感、憎しみ、嫉妬、プライド、心配が減少し、問題が少なくなり、心の平和を感じることが多くなる」であれば、それは自分にふさわしい教えの道にいるということで、その道をさらに邁進すればいいのだと思う。しかし、自分がスピリチュアルな探求の道にいるから、あるいはこの宗教教団に所属しているから、そうでない人たちよりも「神に愛されている」とか、「特別に偉い選民である」という考え方は、愚の骨頂であるばかりか、最終的にはそういったプライドが自らを破滅させる刃にもなる可能性がある。


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