出版で金儲け(!?)2010年03月25日 15時53分48秒

出版社をやってみたいという方にたまにお会いすることがある。もちろん私は、人がしたいということに対しては、何であれ、原則励ます主義なので、「ぜひぜひやってください」とお応えする。

出版はよい仕事だろうか?―Yes―もし本が売れれば(笑)
出版は楽しい仕事だろうか?―Yes―もし本が売れれば(笑)

昔から、出版社は、最低資本でできる業種と言われ、「机(と椅子)と電話」、今なら、これにパソコンとソフト、プリンターがあれば、誰でも出版社を作ることができる。しかも、パソコンとDTP(編集)ソフトの進化によって、印刷経費は、昔に比べてはるかに安価になり、いわゆる取次ぎ会社(本の問屋さん)に加盟しなくても、今では、インターネットを使って自社だけで売ることもできるし、各種インターネット・ショッピングモールに簡単に加盟もできる。

そんなわけで、出版社を作る敷居はずいぶん低くなってはいるが、現実には出版社の数は減り続け、倒産も増えている。

まあ、早い話、紙の本や雑誌を読む人が減っている、本や雑誌の代わりに、インターネットで無料の情報を得られるので、無理して本や雑誌を買う必要がない、携帯、マルチチャンネルテレビ、インターネットの影響で、本を読む時間がない、文字の多い本を読まなくなっているというか、読めなくなっている人たちが増えている――文字ぎっしりの本を読むのが好き、抵抗なく読めるという活字派はきわめて少数派なのである。

そんなこんなの状況で、それでも出版を起業してビジネスとしてお金を儲けることができるかといえば、そこは、逆転の発想で、普段はほとんど本を読まない人たち(圧倒的多数派)にアピールする本を作れれば、マーケットは実は非常に広い。普段本を読まない人、読む時間がない人でも、機会があれば、本当は本を読みたいと思っている人たちは多いという調査結果も出ている。

いつだったか、ユニクロの社長の柳井氏がインタヴューの中で、「世の中で、ファッションに関心がある人は、実はそれほどたくさんいるわけではなく、多くの人は服を選んだり、買ったりするのを面倒だと思っている。ユニクロは、ファッションに関心のない人でも、男性でも、とりあえず、あそこへ行けば、何かしら買える服があるというお店にした」という主旨のことを言っていた。ファッションに特に興味のない人でも服を簡単に選べて、買える店――慧眼である。確かに、たまに私もユニクロへ行くと、家族で来て、かご盛で服を買っている人たちが目につく。

それを出版にも当てはめれば、「出版で金儲け」のヒントは、普段は本に興味のない人、本を読まない人たちにも買ってもらえる本を企画して、作ることだ。

本を読まない人向けの企画が成功したここ数年間の例をいくつか挙げてみると、

まずは、シリーズ通算、数百万部は売れたという話の、血液型の本、「A型自分の説明書」(文芸社)(他、B型,O型,AB型の4冊)。本屋でチラッと見た印象によれば、1ページに1行20文字×10行程度≒200字くらいの本だったような気がする。本文総ページ110ページとして、総文字数、2万2千字くらい、本体価格1000円で、労働効率の非常にいい本だ。(ちなみに私が今読んでいる自然科学の翻訳書は、1ページ931文字、総ページ約400ページ、本体価格2000円、総文字数37万2千字以上もある)

本を読まない人向けの本は、まず第一に1ページの文字数が少ないこと、薄いことが絶対条件の一つである。
それから、誰にでも関係のあること、多くの人がたわいもなく話題にできること、この場合は、血液型のない人はいないので、本を普段読まない人にも「読みたい」と思わせる。

そして、第三の要素に、文字だけでなく、イラストやマンガをたくさん入れるということも大切である。これでずっと、本に親近感をいだかせ、読んでみようかという気にさせる。

最近書店の店頭にうず高く積まれている「日本人の知らない日本語(メディアファクトリー)は、日本語学校で学ぶ外国人生徒と日本語教師たちの抱腹絶倒のやりとりをマンガと文字で描き、シリーズ通算、百万部を越えたそうである(私はこういう本はわりに好みだ)。ほとんどマンガなので、買ってから1時間以内に読める。短時間で読めるというのも大事な要素かもしれない。

それから、全米で数百万部、日本でも数十万部売れたという「ザ・シークレット(角川書店)。こちらも本を読まない人向けの本である。欧米での「ザ・シークレット」の過剰ともいえるほどの人気を社会学的に研究した「ザ・シークレットの真実(カレン・ケリー著PHP発行)によれば、「ザ・シークレット」の成功は、まず本よりも先にDVDを作ってプロモーション活動をし、今までニューエイジ系の本に関心のなかった層への売り込みに成功したことが大きかったそうだ。

秘密でもなんでもない中味の本に、大胆にも、「ザ・シークレット」(しかも、A Secret ではなく、「The 」Secretである――英語のTheには、「ただ一つの」という含みがある)というタイトルをつけ、権威ある有名人をたくさん登場させているあたりが、著者及び製作者たちのすぐれたマーケティングのセンスを感じさせる。「秘密」って言われ、さらに有名人が宣伝しているとなると、人はそれを覗いてみたい誘惑に駆られるものだ。

他に、若い素人の人たちが携帯でサラサラ書いたものを、紙の小説化にして、何十万部も売り上げている(百万部も売れた本もでている)携帯小説の分野がある。これも、「本を読まない人向け」本で成功した例である。

さて、この間私は、ルポ 現代のスピリチュアリズム(織田淳太郎著 宝島新書)という本を読んでいた。日本でスピリチャルに関わっている様々な人や団体を取材した本で、現代日本のスピリチャル世界の表と裏を書いている。

このルポの中で、私が特に興味深く読んだのが、スピリチュアル系志(こころざし)系出版の老舗、「めるくまーる社」を28歳で起業した和田元社長の話だ。1970年代後半、私はめるくまーる社の本を買いまくって読んだものである。2001年以後、激しいうつ病になって、ようやくそれを克服したという和田氏は、30年間を振り返って、「最後に会社をおかしくしてしまったけれど、私は30年間も好きな世界で仕事をさせてもらった」と語っている。和田氏の気持ちが痛いほどわかるというか……

出版社にかぎらずビジネスを起業し、会社を作ることはある種の「人生修行」である。出版社の場合、「志」系出版社になると、その修行が2倍大変になり、それにさらにスピリチュアル系が加わると、3倍大変になる。しかし、修行が終われば、和田氏のように平和な境地になれるだろうと思う、たぶん。

「出版で金儲け」か……「出版で修行」か……どちらにせよ、やってみれば、波乱の冒険となること間違いないです……

参考図書
「インターネット「印税」生活入門」立石洋一著(メディアファクトリー)
(少々古い本ですが)インターネット上で小説(ただし、紙の本ではなく、電子書籍)を売っている著者の体験記。