「ただそれだけ」 ― 2011年11月02日 11時34分19秒
ようやく11月20日すぎに、 「ただそれだけ――セイラー・ボブ・アダムソンの生涯と教え」(カリヤニ・ローリー著 ナチュラルスピリット発行 本体価格1800円 ISBN978-4-86451-022-6 C0010)が発売されるということなので、本書について簡単に紹介したい。
本書は、オーストラリアの賢者、セイラー・ボブ・アダムソン(1928年生まれ)に関する初めての邦訳本であり、前半が彼の生涯の伝記、後半が教えと、二部構成になっている。書いたのは、ボブ本人ではなく、娘のような存在であるらしい長年の友人が、ボブについて丹念に情報を集めて編集した本であり、ボブに対する彼女の愛情があふれている――なぜ、名前の前にセイラー(水兵)というあだ名がつくのかというと、彼は長い間、船に乗る仕事をしていたので、AAの会(いわゆる「アルコール中毒無名者の会」)の時代からずっと、セイラー・ボブと呼ばれていたからだ。
今でこそ国際的にも著名な賢者ではあるが、彼の青年時代は、酒と暴力に明け暮れ、絶望的な日々を送っていたことが記されている。それから、アルコール中毒からの更正をめざして、AAの会に入り、そのあと関心をスピリチュアルに移し、様々な教え、先生の元で一心に修行に励む日々を送る。その間、生涯のパートナーとなる妻との出会いと一時的な別れ(アダムソン夫妻は時々別居している)があり、そして、最後の師であるニサルガダッタ・マハラジとインドで出会い、「自分の本質について」の理解を得る。しかしその後、オーストラリアに戻ってからも、人生の苦難は続くが、それらを平静に乗り越え、ようやく50代後半から仕事も安定し、それと同時に、自分の理解を分かち合う活動を始める。といったところが、大まかな生涯だ。
若い時代の彼は膨大なエネルギーをもてあまし(誰でも若い頃はそういう傾向があるものだが)、そのエネルギーをどう表現したらいいのか、極度の混乱と苦痛状態にあった。私自身にも若い頃、自分の中で飛び跳ねるエネルギーを、どう方向づけていいのかわからず、極度の躁鬱状態だった時期がある。私の場合は数年だったが、ボブの場合は十年以上その状態が続いた。極度の苦しみがあるとき、人はその苦しみをなんとかしたくて、スピリチュアルな道に入ることが多く、そういう意味では、極度の苦痛が人生の転換点となる場合もある。とはいえ、AAの会でボブの友人たちの何人かは自殺し(ボブ自身も自殺を真剣に考えたことがあった)、自殺への道とスピリチュアルへの道と何がそれを分けるのかは、不可思議なことである。
後半は、ボブへのインタヴュー、集会での訪問者たちとの対話から抜粋されていて、彼はタイトルどおり、まさに「私たちの本質は意識そのものであり、分離は幻想である」という、ただそれだけ(Only That)を語り続けている。彼の教えは、ニサルガダッタ・マハラジの教え、インド・アドヴァイタ(非二元論)の教えの系統を引いているといえるだろうが、ボブ本人は、自分はどんな伝統にも属していないと言い、禅、アドヴァイタ、その他自分が学んだ様々な教えの言葉を自由に引用しながら語る――日本の江戸時代の禅師、「不生の知恵」(生まれないものの知恵)を説いた盤珪はお気に入りのようである。現在でもボブは、週に3回メルボルンの自宅での集会を続けているという。
本書には、ボブがニサルガダッタ・マハラジの教えやその人柄・思い出について語った部分もあり、「アイ・アム・ザット私は在る」(ナチュラルスピリット)の本からは、おそらく知ることができないであろうニサルガッタ・マハラジの人間的部分もかい間見ることができる。インド・アドヴァイタの教えを学んでいる方々、ニサルガダッタ・マハラジ、ラメッシ・バルセカールの本の読者の方々には、たぶん楽しく読め、かつアドヴァイタの教えのシンプルな基本を確認できる本(本文は、230ページ弱の薄い本)である。
関連サイト
コメント
_ コーヒーゼリー ― 2011年11月25日 12時48分32秒
_ ライムライト ― 2012年02月21日 14時20分02秒
読みました。
わかりやすいです。 マハラジさんの「アイアムザット」と共に読むと、理解がひじょうに楽です。このままで良いと、道が開けた感じです。
メルボルンが近くになりました。
わかりやすいです。 マハラジさんの「アイアムザット」と共に読むと、理解がひじょうに楽です。このままで良いと、道が開けた感じです。
メルボルンが近くになりました。
_ たいら ― 2014年07月24日 12時12分59秒
去年の今ぐらいの時期に、ボブさんにお会いしました。85歳のおじいさんでしたが体が強く、がっしりしている方でした。約一年近くものあいだメルボルンに滞在していたわたしと、公私ともにお付き合いしてくれました。
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わかりやすく内容が濃いです。
よい本を訳していただきありがとうございました。
ところでマハラジの新しい本はいつ出版されるのですか?