アベノミックスの行く末 ― 2014年12月15日 09時31分25秒
先日、スーパーへ買い物へ行ったときのこと。スーパーの入口近くに一人の女性が首から募金箱のようなものをぶら下げて、直立不動で立っているのに気づいた。直立不動で無言で寄付集めは珍しいと思いながら、私はそのままスーパーの中に入り、買い物をし、数十分後に出て来たら、まだその女性が直立不動で同じ場所に立っていた。
少し興味をひかれ、私はその女性の前に行き、箱に張られている紙に書かれている文章を改めて読んで、やっとわかった――この女性は寄付集めの活動をしているのではなく、自分への物乞いをしていることが。
書かれている文章は、英語でいういわゆるsob story (お涙ちょうだい話、他人の同情を集める話) のたぐいで、自分は数年前に癌を手術し、子供は事故死し、現在、自分には身よりがなく、体が弱くて働けない、とまあだいたいそんなことが綴られていた。
私は思わず、「この寒空の中、人目に耐えて、直立不動で長い間立っているだけの忍耐力と体力があるなら、どこでも働けますよ」 と心でツッコミを入れてしまったが、それでも彼女の忍耐心に感心して、微笑んで「頑張ってください」と小声で言いながら、 箱にお金を入れた。
sob storyはたいてい話の半分以上はウソというのが決まりだから、私が見かけた女性の話も半分はウソかもしれない。それでも彼女が貧困状態にあるのは確かなことだろう。インドあたりではこういうsob storyで物乞いする女性はありふれているし、アメリカやヨーロッパでも時々見かけたことがあるが、日本国内で見かけるのは初めてだった。一人見かけたということは、これからこういう女性が日本の各地に出没するのかもしれない。日本国のますますの貧困と格差の進行を予感させる出来事だった。
国民間の経済的格差は、それが大きければ大きいほど、国は全体では貧困である。つまり、どれだけ一部の人たちと一部の企業だけが儲かっていても、大多数の国民の可分所得(自由に使えるお金)が減っていけば、国全体は貧しくなる――消費税は貧困層がますます貧困になる税金である。だから、先進各国はどこでも格差が広がっているので、みな相対的に貧しくなりつつある。そして、国全体が貧しくなるとき、社会は争いと暴力への圧力と不満な気分が高まり、政治は過激な保守系(と共産党)が人気を集めるのが一般的な傾向だ。
今回の選挙期間中、自民党の麻生財務大臣は、自民党が大勝するという予想のせいか、超ご機嫌だったようで、もう言いたい放題で、「この円安で儲けることができない企業の経営者は、運が悪いか無能」とまで言い切った。
しかし、現在の株高円安は、日本国の実体経済とは無関係に、政府の政策によって人為的に作られたものなので、それで儲かっているからといって、別に経営者が経営能力があるとか運がいいわけでもないし、それで儲からないからといって 運が悪いとか無能ということにもならないだろう。この国が貧困への道を歩きながらも、なんとかかろうじてまだ普通にまわっているのは、麻生さんがいうところの「無能で運の悪い」大多数の経営者の元で働いている大多数の労働者の勤労のおかげであって、政府の愚策のおかげではない。
それでも、麻生さんがそんな失言(本音)をしても影響ないほど、今回の衆院選挙では自民党が圧倒的に強かった。その理由の一つは、前回話題にした「苦痛に耐える能力」であると、私は思っている。一度野党に転落して野党のみじめさを知った自民党は、苦痛に耐える能力が格段にあがった。野党になるみじめさを味わうくらいなら、どんなに苦痛でもお互いの考えの違いに耐えて挙党一致で政権にしがみつくという決意をしている。自民党の政治家の中にも、安倍さんの保守的な考えを支持しない人たちもたくさんいるはずであるが、政権与党にいるために、その違いに皆さん耐えているというわけである。
それに比べれば、野党を作ってきた小沢(一郎)・菅(直人)・石原(慎太郎)・橋下(徹)その他各氏はみな、忍耐力がないところが共通している。忍耐力がないのに、やたら一緒に党を作っては解党するので、国民の支持を長く集められないのだ。
ということで、自民党圧勝に終わった昨日の衆院選挙。でも大昔の平家の時代から、「驕れる者は久しからず」という、権力者を戒める言葉があるように、麻生さんも安倍さんも有頂天になって、あんまりやりたい放題言いたい放題やっていると、神様からお目玉をくらうかも……
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