低成長・低エントロピーの時代2009年02月16日 14時29分28秒

ここ数ヶ月、マスコミのニュースは、経済と雇用と失業の話ばかりだ。

こうやって、どん底まで(もっと落ちるとも予想されているが)景気が落ちてみると、いかに過去数年間の「景気」が表面的だったかがよくわかる。アメリカの住宅バブルに依存していた「偽景気」だったので、現在の状況は当然の結末であろう。

私は、90年代初頭のバブル崩壊以後、日本全体の景気がよかったことは一度もないと思っているし、それが多くの国民の実感でもあるはずだ。あのときに、日本の戦後を支えた成長し続ける重工業モデルは終焉したのである。

しかし、この国の官僚、政治家、そして経済人、金融業界の人たちは、なぜか現実を見ないで、いまだに「経済成長・経済拡大・輸出拡大」の成長神話を信じている。つまり、国全体で老人が増えて、その世話に追われる国(国家として体力のない老人国家になりつつある)では、もうかってのような重工業成長路線は向かないのに、いわゆるこの国の指導者たちは今だ、輸出向きの自動車産業や電気メーカなど大企業中心の経済構造に頼って、景気を盛り上げようとしている。

彼らの希望的観念(成長神話)と実際の日本の現実が、かぎりなく乖離しているゆえに、90年代の公共事業へのバラマキも、小泉構造改革も、その結末は、多数の国民の痛みと国家の借金だけという結果となっている。でも、「痛みに耐えて、構造改革」という小泉さんの物語を多くの国民は信じたわけだし、政治・経済状況は国民の知性のレベルを反映しているので、現在の状況もある意味では、国民の自己責任というところか……

経済に関して、これから必要なのは、「経済成長しなくても、低成長でも、幸福になる道」(GDPではなく、国民幸福度を大事にするブータンのような国の発想)みたいな大胆な発想転換と、これからの日本経済は、かぎりなく低成長であり、GDPが下がるのも当然という認識だと、私は思っている。今後数十年の日本の経済状況については、希望的観測ではなく、きびしい認識をもっているほうが、現実と合っているので、生きていくには役に立つはずである。

地球の立場から見れば、エネルギーを使いまくって、エントロピー(熱)を上昇させる経済は、もう限界が来ていて、だから、車やその他の物が売れないことは、地球にとってはよいことにちがいない(それは実際、地球の「意志」かもしれない)。

大人の世代よりもむしろ若い世代の人たちのほうが、これからは低エントロピーの時代だということを肌で感じているのだろうか、車や海外旅行に興味のない人(かつては若者の憧れだったこと)が増えているという。

先日読んだ本、「エントロピーの法則」では、エントロピーの法則の観点から、現在のアメリカに代表される高エントロピー志向社会(高成長・大量生産・大量廃棄社会)が行き詰まることを警告していて、これからは、低エネルギー・低エントロピーのものしか生き延びないと断言している。かなり前に出版された本であるが、エネルギー消費が早まるほど、失業率も増加するなど、現在読むと、なおいっそう著者の言っていることの正しさがよくわかる。

エントロピーの発想から見れば、これからは、

生産活動を適正にして(つまり、必要な物を必要なだけ最小生産)
できるだけスローな生活をする
できるだけエネルギーを消費する機械を使わない
自分で自分が食べる分の食料を作る
できるだけ静かにしている

つまり、ニートぽい人たちとか、自給自足のような暮らしをしている人たちが、「地球に最も好かれる」人たちだ。

私も心は低エントロピー志向だが、一方、便利な機械は好きなほうだし、移動するときはできるだけ速い乗り物に乗りたいし、パソコンは何台ももっているし、仕事その他で高エネルギー消費の便利さに依存した生活をしているので、地球に好かれる度数からいえば、たぶん、かなり度数が低い……なるべく低生産・低エネルギー消費・低エントロピーで、どうやって、暮らしていくか――それを日々考えてはいるが、実際は矛盾だらけである。


「エントロピーの法則」ジェレミー・リフキン著 (祥伝社)
エントロピーの法則が、経済や社会においてどれほど重要な法則かを、歴史を振り返りながら解説している。理系の知識に興味のない人でも、エントロピーの法則とは何かがおおよそ理解できる本。

「エントロピーと秩序」ピーター・W・アトキンス著
エントロピーについて本格的に学ぶなら、本書をお勧めする。ほとんど数式が出てこないので、素人でも読め、「そういうことだったのか、エントロピーとは」と、宇宙全体から人間の体まで、現象世界を見る新鮮な視点と驚きが得られる。ただし、素人向けの一切の妥協がなく、本格的に解説しているので、何回も読まないと理解できないほど複雑難解なので、時間がたくさんある人向け。