「ほどほど」という考え2009年02月27日 09時04分19秒

石油価格も穀物価格も今はかなり値段が下がったようだが、それが最高潮に値上がっていた頃、そういう市場へ大量の資金を投入していたアメリカのヘッジファンドの代表へのインタヴューを私は見たことがある。

インタヴュアーがこう訊いていた。

「あなた方が、大量に穀物市場に資金を投入したせいで、貧しい国では、穀物の値段が急騰して、食料をめぐる暴動が起きています。そういうことをあなたはどう思っているのですか?」

それに対してヘッジファンドの代表はこう答えていた。

「別に。私たちの仕事は、顧客から預かったお金を一番儲かるところへ投資して、利益をできるだけ上げることです。それが私たちの仕事です」

私はそのとき、それを聞いて、思ったものだ。「食い物の恨みは恐ろしいことを、この人たちはあんまり知らないのかもしれない」と。

人はお金その他に関して、どんな考えをもつことも自由であり、どんな価値観が絶対的に悪いわけでも正しいわけでもないが、しかし、自分がすること・考えることの結末は自分に循環して戻ってくる(これをスピリチュアルな世界では「カルマ」と呼んでいる)確率が高いものだ。

アメリカという国は、根から上昇主義、お金の量で計る成功主義が蔓延している。彼らに理解できないのは、「ほどほど」とか「まあこのくらいで」といった中庸的な考えで、アメリカではこういう考えを、「負け犬の考え」と呼ぶ。しかし、極端な上昇主義の国では、その代償として、一方で格差と貧困が拡大する。

私も、お金は便利だから好きだが、拝金主義とアメリカのような格差のありすぎる社会は好みではない。なぜなら、格差のありすぎる社会とは、

:必然的に犯罪と暴力が多い。
:社会全体は貧乏。
:社会的公共的インフラの整備がお粗末。

のような社会だからだ。

そして、アメリカの上昇主義に中途半端に影響されてきた日本も、気づいてみれば、格差と貧困は拡大し、国全体は貧乏になりつつある(悪いところだけがアメリカに似てきている)。

さて、先日、アメリカのクリントン国務長官が、アジアにやってきた。(外国で醜態をさらけ出す日本の政治家とは違って)、自国の印象アップに貢献し、各国で見事なパフォーマンスを披露した。が、彼女がアジアに最初に挨拶にやってきた本当の理由は、「これからもアメリカにお金、よろしく」という意味だ。また、オバマ大統領が、各国政治家の中で麻生首相を最初にアメリカに招待したのも、「これからもアメリカにお金、よろしく」というためである。アメリカは、日本の一年間の国家予算にも匹敵するお金を、経済再建につぎ込むというが、そのお金の多くを日本、中国などのアジア各国からの「援助」に頼る予定のようだ。

アメリカの言い分は、こうである。

「もしあなた方が私たちにお金を出さなければ、あなた方の国の経済も停滞したままですよ。これからもアメリカに物を輸出したければ、お金を出しなさい」(日本の立場からいえば、自分のお金を貸して、そのお金で相手から物を買ってもらう奇妙な経済である)

政治レベルでは、日本はこういった圧力に屈するだろうけど、アメリカが日本からこれから一番輸入する(学ぶ)べきものは、本当は、「日本のお金や物」ではなく、「ほどほど」「そこそこ」「普通」「仕方ない」という、日本的中庸の考え方だと思う。オバマ大統領は演説で、「強いアメリカの復活」みたいなことを言っていたけど、もうこの地球に「他国の援助に頼る強いアメリカ」なんて、必要あるの? という感じである。


で、この間、昼寝中に思いついたアメリカ人向けセルフヘルプの本のタイトル――「あなたを救う『ほどほど』『そこそこ』『仕方ない』――日本的中庸のすごいパワー」


*前回に続いて、エントロピーの発想で書かれた本をご紹介する

「弱者のためのエントロピー経済入門」槌田敦著 ほたる出版
資源物理学者が、現在のような膨張経済ではなく、本当に成長可能な経済とは、どういう経済かを、エコロジー、環境の問題も含めて論じ、貧困、格差の問題の本質に鋭く迫る本。著者もまた、「ほどほどの幸せ」という考えを提唱する。

「エコロジー神話の功罪」槌田敦著 ほたる出版
「リサイクル運動は本当によいことか?」「温暖化は問題か?」「太陽光発電は環境にやさしいか」等々、エコロジーをめぐる神話と常識に一石を投じる本。リサイクルではなく、動植物も含めたサイクル(循環)が大事という考えは納得できる。日本的「もったいない」の考えから始まったリサイクル運動のたどった道は、よい考えが、必ずしもよい結末にならない難しさを感じさせる。

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